安倍首相は予定通り消費税を来年4月に8%に引き上げると発表をした。日本の経済指数は好転しているというエコノミストもいる。しかし東京オリンピック招致の成功というつかの間のニュースで株価が上昇したことは、実体経済とは何の関係もない。9月はじめに内閣府は4~6月期のGDPが1~3月期に比べて0.9%増加したと発表したが、消費税を5%から8%に増税すればそのプラス分はすぐに消し飛ぶどころか、1997年に3%から5%に増税した時以上の悪影響を日本経済に及ぼすことは間違いない。
なぜこうも断定できるかといえば、これまでの消費税増税の経緯を振り返ればよい。私からすれば日本経済が20年以上にわたり低迷してきたことと、消費税の導入となぜ関連付けて考えないのか不思議なくらいだ。日本の経済を支えているのは国内消費である。GDPの約70%は国内消費で、残りの30%のうちの29%は総資本形成、つまり企業などが行う設備投資である。その29%のうちの70%が国内消費に応えるためだと考えると、日本のGDPの約90%は国内消費関連だといえる。消費税の増税は、その90%に罰を与えるようなものだ。
国は国民から税を徴収する権利を有する。それは個人が国から受けるサービスへの対価であり、公共の利益を維持するためでもある。誰もが払うべき税金は公平なものでなければならない。公平というのは一人一律いくら、ではなく、各人の負担能力に応じて配分されるべきだということだ。しかし近年、どんな税制が最も公平かという議論がなされたという話は聞いたことがない。そのかわりに、気が付けば政府に対して政治献金などで影響力を持つ財界のために法人税が減税され、一般国民から広く浅く消費税をとり、さらにそれを増税しようというのが平成になってからのパターンである。
消費税増税でさらに景気が後退すれば、企業が倒産し失業者が増え、または正社員の替わりにアルバイトを雇うなどして企業は人件費削減に励むであろう。8月に総務省が発表した労働力調査によれば、すでに日本のパートなど非正規労働者数は1881万人と過去最多に、正社員雇用は前年同期比から53万人減少して3317万人になったという。
消費税増税を自身が決断すれば、その結果にも責任を持たなければならないと安倍首相は語ったというが、どのようにして責任をとるつもりだろう。首相の答弁はIOC総会でのプレゼンテーションを思い出す。「福島は私が保証する、状況はアンダーコントロールだ」と述べた。ではなぜ汚染水が漏れるのか。なぜ福島の方々がふるさとへ帰れないのか。景気を上向かせるためにオリンピックを招致したい、そのためにどんなうそをつくこともいとわない、それが本音ではないだろうか。
20年デフレは消費税導入から始まった。8%になればどんな景気刺激策をしてもさらに経済は悪化するだろう。しかし原発事故による放射能汚染も、人々が土地や仕事を失い、今も家に帰れないことなどなかったように振る舞うこの国の首相は、消費税増税で失業者が増えても、それでも日本はうまく管理されている(アンダーコントロール)と言い続けるかもしれない。