No.1053 非正規雇用の増加

政府が10月1日に公表した労働力調査で、8月の就業者数は6310万人と前年同月に比べ29万人の増加、雇用者数も5562万人で51万人増加し、完全失業者は271万人で6万人の減少であったという。完全失業率は前月から0.3%増えて4.1%だったが、有効求人倍率は改善したので景気は回復基調にあるとし、消費税を増税しても問題ない、ということらしい。

消費税増税という全国民に重い負担となる政策決断を、安倍首相は雇用が増えているという都合の良いデータを提示しておこなった。しかし完全失業率には仕事が見つからず求職を諦めた人や、数時間でもアルバイトをしている人はカウントされない。そしてパートや派遣社員のように、期間を定めた雇用契約で働く人の多くは正社員の仕事に就きたいと思っている人が少なくない。

それもそのはずだ。国税庁の調査によれば、正規雇用のサラリーマンの平均年収は468万円、非正規は168万円と300万円もの開きがある。正規雇用者は3317万人、非正規は1881万人と、3人に1人以上が非正規で働いている。学校を卒業してから就職できずアルバイトをする若者や、一家の稼ぎ手でありながら給与が低く、昇進など将来性もない非正規雇用で働く人々が増えたのは、80年代後半から進められた労働の規制緩和による。小泉政権の構造改革はそれをさらに広げ、禁止されていた製造業への派遣労働も解禁され「日雇い派遣」など、さまざまな非正規労働が可能となった。保障がないだけでなく、不況になると真っ先に首を切られるのも非正規で働く人々だ。

政府が労働者派遣の規制緩和を進めたのは、人件費を削減したい財界の意向による。そしていま、政府は「ライフスタイルや価値観の多様化に合わせて」、さらに雇用形態を柔軟にすることを提唱している。それによって企業はさらに柔軟に社員を解雇できるようになる。1930年代初頭、経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、技術革新と生産性の向上によって99年には先進国の労働者の労働時間は15時間程度になり、それでも生活水準の向上を享受できるだろうと予測した。技術的にはそれは可能だったかもしれない。しかし予測が実現することはなく、むしろ、技術進歩によって人々はより長く働くようになった。機械化や、賃金の安い国へ製造業や農業が移転したことで、工場や家庭の使用人などの職は激減したが、セールスやサービス業、事務職などの仕事が増えた。それらの職の多くがいま非正規雇用の仕事となった。

ほとんどの人は生計を立てるために働き、多くの雇用は民間企業が提供する。企業が正社員ではなく非正規社員を雇用するのは、市場資本主義社会においては利益を出すことが第一の目標だからだ。かつて日本は国民の大部分が「中流階層」を自負する国だった。それを可能にしたのは高度経済成長と終身雇用、年功序列賃金といった日本の雇用慣行だった。

国内消費が支える日本経済は、消費税増税により落ち込み、収益が悪化すれば企業は正社員を減らし、派遣社員に置き換えるだろう。非正規雇用の増加は貧困層の増加であり、さらに個人消費は落ち込むという悪循環しかもたらさない。