No. 1054 小泉元首相の脱原発に期待

9月末、東京電力は福島第一原子力発電所の汚染水問題に関して、国内外からの技術・助言を募集すると発表した。

オリンピック招致のため、安倍総理は「汚染水漏れはコントロールされている」と断言したが、汚染水対応のために国内外の英知を結集するチームを立ち上げ、広く対応策を募集する必要があるのはコントロールされていないからに他ならない。

オリンピックで東京は競技場建設など、経済的な効果が見込まれている。しかし、夏の開催となれば電力需要も急増するだろう。だから電力安定供給のために原発再稼働を進める姿勢を表明し、現在日本国内で稼働している原発は1基もないが、2014年4月には柏崎刈羽原発を再稼働させようとしているのである。

その一方で、福島県民は今でも14万7617人が避難をしている(福島民報)。私はオリンピックを否定するつもりはない。しかし福島原発事故は過去のことではなく現在進行形であり、注意深く見れば、ほぼ毎日高濃度の放射能汚染水が漏れ続け、作業員がそれを浴びる事故も頻繁に起きている。汚染水はストロンチウムなどの放射性物質を1リットル当たり何千万ベクレルも含む危険なものだ。さらに東電は11月から使用済み燃料の取り出し作業を開始するというが、溶け落ちた危険な放射性物資をどうやってつまみ出すというのだろう。

これまでにもタンクの水漏れや電源喪失など何度も問題が起きているばかりか、危惧すべきは地震だけでなく、台風で大雨が降るたびに福島第1原発領域の太平洋へつながる排水溝内には高濃度の放射性物質が流れ出ていることが分かっている。日本のメディアは思い出したようにしか原発事故の報道をしないが、海外のメディアには厳しい見方をしているところが多い。

使用済み燃料棒を取り出す作業について言えば、4号機の燃料プールは地震で大きな損害を受けて傾いた建屋の上に乗っかっている。大量の使用済み燃料を格納したまま宙づり状態になっているのだ。広島の原爆がさく裂した時、800グラムのウランが核分裂したという。800グラムであれだけの被害がもたらされたのに、燃料プールに格納されている400トンもの使用済み燃料が取り出し作業の過程で事故が起きて燃料棒が空気に触れたり核分裂を起こせば、一体どれくらいの被害がでるのであろうか。想像することもできないほどの事態が今も進行中なのである。

小泉純一郎元首相が脱原発を主張し始めたと聞く。原発関連企業の幹部と共にフィンランドへ行き、使用済み核燃料を10万年間地中深く保管する核廃棄物最終処分場を視察したのだという。核廃棄物から放射能が完全にでなくなるまで25万年だというが、それは記録に残っている人類の歴史の50倍の長さだ。福島の原発事故は悲惨な出来事だったが、起きなかったとしたらわれわれは原子力発電によって生み出される危険な核廃棄物をさらに積み上げ続けていた。小泉元首相の影響力は大きい。脱原発においては力に期待したいし、これだけは裏切らないで欲しいと心から願っている。