No. 1055 国内消費を殺す税制

景気が回復傾向にあるとして安倍首相は消費税増税を決定したが、8%に引き上げても、ヨーロッパの付加価値税は20%前後であり、日本の消費税は世界的にみると低いくらいだという主張がある。

昨年9月、債務危機に陥ったスペインはEUやIMFの圧力を受けて付加価値税の一般税率を18%から21%に引き上げた。パンや小麦粉などの主食は最低税率4%が維持されたが、その他の食料品は軽減税率8%が10%に引き上げられた(先進国の多くは日本のように消費税税率をひとくくりにせず、食料品などの生活必需品とそうでないものとで税率を分けて設定している)。

この増税によりスペイン経済がどうなったかといえば、El Econimista紙によるとスペインの流通大手企業連合の売り上げは約5%落ち込み、さらにスーパーマーケットの売り上げは今年8月までの売り上げが7・2%減少と、債務危機が始まって以来最大の落ち込みとなり、スペイン経済に壊滅的な影響を与えているという。スペインの債務危機は改善するどころか、さらに景気が悪化しているということだ。

この売り上げ減少の影響を真っ先に受けるのは労働者である。流通大手企業連合では、債務危機以来すでに3万人以上が職を失っていたが、増税による売り上げ減少により、さらに8千人以上が解雇されたという。国を活性化させるためには小売業界が売り上げを伸ばすことは欠かせない。経済面でも雇用の創出においても極めて重要であり、国内消費が7割を占める日本においては特にそれが当てはまる。

先月、金融ニュースで、超高級スポーツカーの日本での販売が好調で、フェラーリの今年の販売台数は前年比3割増になる見通しだと報じられた。メルセデス・ベンツやBMW、アウディなどの高級輸入車の販売も好調だという。安倍政権誕生で昨年秋から円安が進行、株価も上昇し、高級車の購買層にアベノミクスは恩恵をもたらしていることは間違いないし、安倍首相のいう景気回復とは、この一部の層での出来事である。

アベノミクスは2年間で通貨供給量を2倍にするというが、問題はその増えたお金がどこに行くかだ。円安により、日本が輸入に頼っている石油や多くの食料が値上がりして物価が上昇し、支出が増え、需要が増えて企業投資が活発になり雇用が拡大すれば経済は回復する。しかし実際にお金は実体経済に回らずに株式市場に向かっており、株価上昇で利益を得るのは企業や機関投資家、一部の富裕層、フェラーリを買う人々だけなのである。

消費税とは、消費を通じて所得に課税するに等しい。税制のあるべき姿は、有効で好ましい経済活動を行っている人々の税率を低くし、税負担を有益でない活動に転嫁することだ。日本の経済を活性化させたいのに、なぜ国内消費を殺す税制をとるのか。スペインの例を出すまでもなく、日本経済が停滞し始めたのは1989年に消費税3%が導入されてからである。

安倍首相が本当に日本経済を回復させたければ、まずは消費税をなくすことからだ。消費者の購買力が増えれば需要が増え、消費が増え、企業の利益が増える。スペインような結果になる前に、経済を復活させるためにこれまでの逆を試してみる価値はあるはずだ。