内部告発サイト「ウィキリークス」が、11月半ばにブルネイで開かれたTPP交渉会合時に配布された資料だという文書をインターネットに公開した。
英文で95ページに上るこの文書は、エバーグリーニングとよばれる、医薬品の特許保護年数の拡張案によって薬価が上昇することをはじめ、大企業に優先的な著作権保護など、多国籍企業の意図が数多く埋め込まれていることを暴露している。
国民の生活だけでなく、国家の在り方を大きく変えるような協定の交渉内容が非公開とは、その秘密性だけで反対するべきだと私は主張してきた。この草案の「全文」を参照できるのは、各交渉国のわずか3人で、一方で600社を超える大企業のロビイストたちは文書を見る権利が与えられているといい、それが安倍首相が推進するTPPだ。
今回公開された文書は知的財産の強化についてで、医薬品だけでなく、著作権と特許を強めて商業目的でない著作権侵害でも刑事制裁を適用するという、大企業に有利な著作権保護や罰則規定が提案されており、米ワシントンポスト紙は、これをハリウッドのお願いリストだと報じた。アメリカはこのTPPを2013年末までに批准できるようにし、環大西洋貿易投資パートナーシップという欧州連合との次の協定の前例にしようとしている。
さらにTPPのもう一つの大きな問題は投資に関するISD条項だ。ある国に投資を行った外国企業が、その国の政府の定めた規定が、その企業の「利益を損なう」と不服を申し立てれば、その国の法律も法廷も無視して、裁判所でもない「紛争解決処理センター」という世界銀行の機関で、3人の民間の弁護士がその裁定を行うのである。しかも上訴は認められず、そこで決定されたことが最終となる。
政府の規制がその国の環境や国民の健康を守るためのものでも、それによって「企業の利益が損なわれる」とこの弁護士が判断すれば、政府は企業に補償金を支払ったり、利益を阻害する規制を取り払わなければならない。あまりにもばかげている話だが、有名な例を挙げると、福島原発事故の後、原子力発電を段階的に止める決断をしたドイツ政府に対して、原発の運営企業であったスウェーデンのエネルギー企業がそれにより損害をこうむったとして訴訟を起こしているし、カナダでは国民の反対によりシェールガスの掘削を止めたことでアメリカ企業がカナダ政府に補償を求めている。
政府の政策はその国の国民のためであり企業の利益のためではない。しかしTPPという「経済連携協定」によって、政府の政策が企業のもうけを邪魔すると紛争解決処理センターの弁護士が決めれば、その国の国民は企業にお金を差し出さなければならない。政府が敗訴して補償金を払うということは、そういうことだ。
ウィキリークスが公開したTPP文書について日本政府はノーコメントとしている。7月のTPP交渉には日本から100人規模の代表団が参加したというが、自分たちがとんでもない協定を結ぼうとしていると気付いた者は一人もいなかったのであろうか。