No. 1059 日本の貧富の格差

財務省が発表した10月の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1兆907億円の赤字で、16カ月連続という過去最長を更新した。

自民党が政権に返り咲き、アベノミクスが始まって1年になる。デフレを脱して円高を是正し、経済を成長させていくというのがその目的であったが、円安で日本の製造業と輸出を回復するという期待は、エネルギーや食料の輸入による貿易赤字の拡大という結果をもたらした。

自民党の前に政権をとった民主党も円高を阻止するために巨額の介入を行ったが、その理由は円高が経済に悪影響を与えるからだと言った。しかし円高で都合が悪いのは、海外での価格競争力を上げ、製品を売りやすくしたい輸出企業である。日本は国民の生活に必要なエネルギー資源や食料の大部分を輸入に頼っており、円安はそれらの価格を上げることで国内経済に悪影響を及ぼすのだ。

昨年11月に比べ25%以上円は安くなった。それでも輸出額が増えない理由の一つは、日本の製造業がすでに海外に工場を移転しており、輸出そのものが減少していることもある。さらに、日本経済は輸出主導型だと言われてきたが、輸出から輸入を引いた純輸出は過去数十年間の平均でもGDPの約1%に過ぎず、円安で輸入額が増えれば、純輸出がマイナスになるのも当然であろう。

われわれの生活は石油資源なしには成り立たない。1970年代のオイルショックでは、日本の製造業は省エネ技術の開発に励み、自動車や家電、情報機器など高品質な製品を作り、それを国内外に販売して利益を上げた。それから40年たち、石油は1バレル20ドルだったものが今や100ドルにもなっている。日本よりも先に製造業を低賃金の国に移転したアメリカは、コンピューター取引による株や債券の売買で稼ぐ「金融経済」へ移っていった。しかし2008年の金融危機以後のアメリカを見れば、それで国家が支えられないことは明らかだ。一握りの金融エリートが巨額の利益を手にしても、製造業と違い多くの人々に生活できるだけの賃金と雇用を提供することはないからだ。

金融危機以後、アメリカ経済は回復していない。08年に2800万人だった食料手当として支給されるフードスタンプ受給者は、今年3月には4700万人を超えた。雇用の悪化が貧困を増やしている。アベノミクスは国家の繁栄や持続可能な経済のためではなく、資産や株を売買したり、通貨を操作する少数の大企業や富裕層のための政策でしかない。

時事通信が10月に行った世論調査で、安倍内閣発足以降、景気の回復を実感するかどうかを尋ねたところ、「実感しない」が76・4%であったという。株価が上がっても平均的な日本人は株売買をしていないし、平均給料は10年9月から下落を続けている現実では当然の回答である。アベノミクスという勤労者からの略奪と投資家や富裕層をもうけさせるプログラムにより、日本の貧富の格差もアメリカのようになっていくのだ。