No.1060 消費税増税がもたらすもの

経済協力開発機構(OECD)は11月、今年と来年の世界経済の成長率見通しを下方修正し、2015年の日本のGDP成長率は1%と、先進国の中でも最も低くなった。

最近の世論調査によれば、一般国民の多くはアベノミクスの恩恵を受けていると感じてはおらず、したがって景気が回復している実感もないと回答している。アベノミクスによって株価が改善したのは、世の中の金回りの悪い状態を市場に流通する通貨量を増やして改善するという「量的金融緩和政策」によるものである。株式市場へ回ったのはその増えた分の通貨であり、商品やサービスの生産、販売や設備投資など具体的な対価が伴う経済活動が活発になったからではない。

低迷する景気を回復させるために、1999年、日本政府はゼロ金利政策をとった。本来それは債務の負荷を削減するための短期的な金融政策のはずだ。しかしそれ以来、過去15年間にわたり日本は低金利政策を続けるという、世界でも例のない記録を更新している。

いくら金利を低くしても景気が悪ければ需要は増えず、借金をして新たな設備投資を行い供給量を増やそうという企業はない。さらに増税により、給与が少なく雇用が不安定な非正規雇用労働者や、固定収入で生活する預金者や高齢者が消費に使えるお金を減らしたことも景気を冷え込ませた。お金がないときに必要なのは低金利で借りられるお金ではなく、収入と仕事なのだ。そして4月にはさらに消費税率が8%へ引き上げられることが決まり、これで消費にまわるお金はますます減っていく。

それだけではない。国税庁の民間給与実態統計調査によれば、2012年の民間の平均給与は408万円で1997年の467万円をピークに16年間緩やかに減少してきた。408万円は89年とほぼ同水準で、24年前に逆戻りしたということだ。89年の給与所得者数は3850万人で、2012年は4555万人と従業員は1.5倍近くに増えているが、給与総額は1. 2倍しか増えていないのである。これは正規社員の減少と非正規社員の増加を表しており、貧富の格差が16年間で大きく広がったということでもある。

また2012年11月には9500円だった日経平均株価は2013年11月には1万5千円を超えたが、これは企業収益が上がったからでも景気が回復したからでもない。先述したように量的金融緩和によって資金が流れ込んだだけで、失業も減っていないしGDPも増えていない。さらに円安により、ドルは一昨年11月に80円だったものが104円になったが円安も日本経済を強くはしない。輸出は伸びても輸入が高くなり、それが消費を弱めるからだ。

良いニュースは、消費が今後数カ月で増えることで、ミニバブルが起きるかもしれない。しかし悪いニュースは、それは消費税増税前の駆け込み消費にすぎないということだ。その後の落ち込みは悲惨なものとなり、アベノミクスによってさらに富裕層に富が移行し、貧富の格差が拡大していくのである。