No. 1063 消費税増税に固執するわけ

安倍首相が消費税増税を決定した理由の一つは、日本の基礎的財政収支の削減および黒字化を進めるうえで増税は不可避である、というものだった。

基礎的財政収支とは、国の財政収支の状況を表す指標の一つで、借金をせずに税収入だけで、国債の利払いや償還費(国債費)を除いて国民のために使われるべき支出がカバーできているかを示すものである。日本はこれが赤字であるがゆえに新たな国債発行を重ね、将来の世代に借金を押し付けている。

財務省発表による2013年度末の公的債務残高(国の借金)は約750兆円。13年度の歳出は92兆6千億円で国債費の22兆2千億円を引く70兆4千億円が基礎的財政収支である。一方税収は47兆千億円で、それをカバーするために新たに約43兆円の国債を発行し、借金を増やした。

長期的な傾向を見るために1989年から2012年の平均データでみると、この間の国債費は平均で28兆円であった。単純計算で新たな借金をしないためには税収をさらに28兆円増やさなければならない。この間の消費税の税収は平均で約10兆円であり、消費税の増税で国の借金を止めるためには10兆円に28兆円を加えた38兆円の税収が必要で、そのためには消費税は5%から19%に増税しなければならない計算になる。

1970年には7兆円だった日本の公的債務は、42年間で932兆円になった。この借金をもしこれから42年間でゼロにするなら毎年22兆円が必要だ。これもまた消費税を充てるなら38兆円にさらに22兆円を加えた60兆円の消費税税収が必要で、そのための消費税は5%の6倍の30%にしなければならない。

財務省職員への年頭あいさつで、麻生財務相は「消費税率を10%にしなければ『社会保障と税の一体改革』の目的を達成できない」と語り、2015年10月に消費税率10%への引き上げを目指す考えを強調したという。最終目標は20%、そして30%に増税することなのだろうか。

日本の経済はその70%が国内消費で成り立っている。89年に3%消費税を導入した時から経済成長率が急速に減退した例を出すまでもなく、消費税を20%にしたら経済がどうなるのか、エコノミストでなくとも容易に予測ができる。それでも政府は消費税増税に固執する。

高い消費税は逆進性で富裕層に有利に働く。実際、逆進性の税制を主張する人々は富裕者だけである。それは税の支払い能力の低い消費者という一般国民に税負担を転嫁し、富裕者の税負担を軽減するものだからだ。そして減税された大企業や富裕者は、その余剰金を工場や設備投資ではなく、非生産的な投機に注ぎ込むことは、アベノミクスにおける株価に表れている。

円安誘導に加え、消費税増税で製品価格はさらに上昇し、賃金労働者の基本的生活コストはますます上がるだろう。つまり消費税こそが、安倍首相が再生させたいという経済活動の負担となり、足かせとなるのである。