No. 1066 国民の生活直撃する「矢」

アベノミクスの仕掛け人で安倍首相のブレーンとして産業競争力会議の中心人物である竹中平蔵氏は、「日銀が国債を購入して大胆な金融緩和を行うことで円安が誘導され、それによって輸出を増やして貿易赤字が黒字となり日本経済が再生されるアベノミクスは、理論的に100%正しい」と言う。

しかし実際、その反対のことが起きている。安倍政権発足時から約20%円安になったが、輸出の増加は見られず、それどころか石油や天然ガスの輸入代金が円安で膨らみ、18カ月連続の貿易赤字を記録し、1月の貿易統計速報によれば、2013年の貿易収支は11兆4745億円の赤字と過去最大になった。

政府は、貿易赤字の増大は原発を停止していることによる輸入燃料費の高騰が原因だというが、それは一部の理由でしかない。なぜなら赤字が急増したのは中国やヨーロッパとの貿易で、日本はこれらの国から燃料を輸入してはいない。円安になってもなぜ輸出が増えないかといえば、それは日本企業が製造拠点を海外へ移転してしまっているからなのだ。

原発事故の起きる前の10年、日本は約17兆3千億円のエネルギー資源を輸入していた。13年にそれは10兆円増え、27兆4千億円となった。10年は日本が貿易黒字だった最後の年である。東日本大震災の後、企業はさまざまな理由で生産拠点を海外へ移転していった。電力を確保し、停電を回避するため、またサプライチェーンを多様化するため、そして安い労働力を利用するためだ。貿易統計をみると、かつて日本が強かった分野である精密機械をはじめ、さまざまな製品が海外で生産され、今、日本はそれらを輸入している。

日銀は大量の国債を買い取って円安にし、それにより日本人の資産価値は20%下がった。14年にはさらに多くの富が消滅するだろう。1月、日銀は景気報告として内需が堅調に推移し、景気回復の動きが地域経済に広がっていると発表した。当然である。4月の消費税増税前に住宅など大きな買い物が増えているからだ。しかし、それも4月には終わる。消費税が5%に上がる前の1996年も日本経済は活況したが、97年の増税後、一転して不況に転じている。同じことが繰り返されるのは明らかだ。例えば日本自動車工業会は14年の国内新車販売台数が前年比9.8%減の485万台に落ち込むとの見通しを発表している。

そして今度は97年よりもずっと悪くなるだろう。なぜなら消費税が2%でなく3%も引き上がるせいで、駆け込み需要が増える分、落ち込みは激しくなるからだ。また、消費税を確保するため、政府は小売店に「消費税還元セール」などを禁じる消費税転嫁対策特別措置法なるものを、昨年施行している。

さらに、円安、消費税増税に続いて、もう一つの目標であるインフレ目標への政策が本格的に始まれば、賃金の上がらない労働者、年金や預金で生活する人々にとっては大きな痛手となる。こうしてアベノミクスの矢は、実体経済、国民の生活を直撃するのである。