去る3月、クリミア自治共和国がロシア連邦に編入した。住民投票で9割以上がロシア編入に賛成を投じたにもかかわらず、アメリカにならって日本政府は住民投票は法的効力はなく、その結果を承認しないと発表している。
発端は昨年起きたウクライナでの政変だ。親ロシア派だったヤヌコビッチ大統領がEU協定調印を棚上げしたことから市民デモが起き、反政権側が権力を掌握した。これに対してプーチン大統領は、選挙で選ばれた大統領を倒してできたウクライナ新政権は正当な政府ではなく、ロシア系住民の多いクリミア半島で不当な権限を行使しているとしロシア軍を派遣、オバマ大統領はそれに反発し、もちろん安倍首相もすぐにアメリカ支持を表明した。
ロシアが軍隊を派遣したのはウクライナをとるという意思表示であるのは明白だが、アメリカも黙ってはいない。ウクライナはエネルギーの要所であり、世界中のエネルギー資源供給地には米軍基地を置くか、基地がなければ現政権を転覆させてでも親米のかいらい政権を立てるのがアメリカのやり方だからだ。
アメリカ国家安全保障局(NSA)がドイツのメルケル首相の電話を盗聴していたことが話題になったが、アメリカのヌランド国務次官補とウクライナ駐在のパイアット米大使が1月下旬ごろ、ウクライナの指導者を誰にすべきかを話している電話の会話が盗聴され、2月初めにインターネットに暴露された。(米国務省はこの会話の内容が本物であることを認めた)そしてその後、ソチオリンピックの開催中に、このアメリカの計画に沿ってウクライナでの反政府運動が激化したのである。
英ガーディアン紙によれば、アメリカのウクライナへの干渉はブッシュ政権にまでさかのぼり、2004年には6500万ドルを使って野党陣営を支援し、民主化の訓練を施した。昨年12月、ヌランド国務次官補はワシントンで演説をし、アメリカはこれまでウクライナの民営化と繁栄のために50億ドル以上を投じたと述べている。
昨年1月、ウクライナはロイヤル・ダッチ・シェルと、11月にはシェブロンとガス田開発契約を交わした。これによりウクライナはロシアへの資源依存を減らしたいと思っており、またアメリカは、何としてでもその地域のロシアの覇権を崩してエネルギー資源を独占したい。親ロシア派のウクライナ政権を転覆させるために50億ドルも投じてきたのは、そのためなのだ。
ウクライナ問題はエネルギー資源をめぐる駆け引きであり、だからこそクリミアがロシアに編入されれば、クリミアの海軍基地からロシアを追い出すことができなくなる。クリミア人が住民投票で決めたとしても、アメリカはそれを認めるわけにはいかないのである。
オバマ大統領は、プーチン大統領を非難はしても武力行為に出ることはないだろう。もし出たら、米国債を売られたり、ドルが下落したりと大きな影響が及ぶ。またヨーロッパの国々もロシアからの天然ガス供給が途絶えれば大変である。もちろん実際にガスの供給を止める可能性は低いが、ウクライナ問題で欧米がロシアにどんな制裁措置を取ろうにも、報復の大きさを考えれば圧倒的にロシアが優勢である。