No. 1073 格差広げた消費税

日本の経済が停滞し、いわゆる「失われた10年」は「失われた20年」へ、そして25年になろうとしている。

1991年に始まったこの不況は不動産バブルの崩壊が原因だと言われるが、私は89年4月から導入された3%消費税の影響の方が大きいとみている。80年代後半には約10%前後だったGDPの前年比成長率は、90年に8%、91年に6%、93年には1%へと減速している。

1997年に消費税が5%になると、マイナス成長の年も出始めた。所得が低い人ほど税負担が増える逆進性の消費税が導入されたために、国内消費の大部分を担う中流層、低所得層の税負担が増え、消費が停滞したためである。同時に政府は、富裕層のために所得税と相続税を減税、また大企業の法人税も減税したことで、消費税増税にもかかわらず国と地方の借金は増え続け、約1千兆円にも膨らんだ。

失われた時代が始まる前の日本は、世界でも有数の平等な社会だと言われていた。消費税が不況の主因ではなかったとしても、逆進性の高い消費税が富裕層と貧困層の格差を広げたことだけは間違いないだろう。生活保護受給世帯が4カ月連続で過去最多を更新というようなニュースを目にするにつけ、ひと握りの国民が残りの国民に比べて多くの富や収入を手にすることのない社会を築くことの必要性を痛感する。

消費税を導入した80年代後半から、日本はアメリカ式の「自由競争」の哲学も取り入れた。これによって、お金や才能がある人は、他の人よりもはるかに多くの収入や富、権力を手に入れることができ、またその少数の強者から弱者を守るための規制は取り払われてきたのである。これが市場原理主義であり、政府の介入を排して自由主義による競争促進政策が経済を強くするというものなのだ。しかしこれ以降に貧困が増え、さらには国の経済も弱くなったのだから、同じことを続けるのは愚かではないか。

いまや日本はOECD諸国の中でも貧富の差が激しい国の部類になってしまったが、かつて1億総中流と言われた時代には、金持ちや権力者にお金が集中しないよう税制が考慮されていた。また国を富ませ、できるだけ多くの国民に最大の幸福がいくようにするため、政府は今よりもずっと厳しい規制を強いてきた。所得や富の格差が小さければ小さいほど社会は安全であり、また国民の利害は一致するだろう。そして長期的な視野で物事を捉え、地域や国のことを考えて行動に移すこともできるのだと思う。

1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン教授は、現代主流となっている経済学の問題点を指摘し、経済成長よりも国民の健康や教育、よりよい生活などの達成が先にくるべきであることを主張したが、まさに今、日本で求められるのもその視点だと思う。政治の目的は人々の幸福であり、経済はそれを達成するための手段で、目的であってはならない。

国際公約である財政収支の立て直しのために不可避だと、安倍政権は消費税を増税した。しかしどんなにグローバル化が進もうとも、人はグローバルではなくローカルな存在なのである。