4月末、オバマ大統領は日本を訪れ安倍首相と対面した。以前からアジアを重視していると公言し、今回も日本訪問の後、韓国、マレーシアなどを歴訪している。
日本での首脳会談における最大の焦点の一つだったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の協議は物別れに終わり、アメリカ国内の最新の世論調査ではオバマ大統領の支持率は41%と、これまでの最低となっている。
しかしアメリカの問題はオバマ大統領自身にあるわけではない。アメリカ経済衰退の理由の一つは貿易赤字であり、輸出額をはるかに上回る量を輸入してきたことだ。そのために日本をはじめ、さまざまな国からお金を借り、近年は中央銀行である米国連邦準備制度理事会(FRB)がドルをつくることで、現在の生活水準をかろうじて維持している。これを単純に家計に置き換えるとすると、もし所得だけで生活することになればアメリカ人の暮らし向きは大幅に悪化することは避けられないだろう。
なぜここまでアメリカの所得が低くなったのかといえば、多くの製造業と雇用がなくなり、脱工業化社会になってしまったからである。製造拠点をアメリカ国内から中国などの海外へ移転し、海外で作られた製品を輸入しなければならないためにアメリカは貿易赤字国となった。逆を言えば、1980年代には300ドルにも満たなかった中国の1人当たりのGDPが今では7300ドル超となり、中国経済がこれほど強大になった理由を考えてみるとよい。
中国はアメリカや日本からの輸入額を大幅に上回る製品を生産し、それをアメリカや日本へ売っている。身の回りにある物の生産地を見れば、これまで日本の製造業者が国内の工場で作っていたような物でも「中国製」があふれている。中国を大国にしたのはアメリカであり日本なのだ。
日本の製造業の就業者は92年の1603万人からほぼ一定の割合で減少し1061万人となった。GDPにおける製造業の割合も、80年には27%だったのが今では19%である。アメリカについて言えば、80年代は就業者の20%以上が製造業だったのが、今では9%にすぎない。企業が安い人件費を求めて生産拠点を海外へシフトしたからだ。
TPP交渉参加国のGDPを合わせると日米で全体の91%を占め、TPPは実質日米2国間協定だといえる。11月の中間選挙で勝つためにも、オバマ大統領はTPPで日本市場を掌握し、日本への輸出を増やしたいと思っている。
「アベノミクス」に沸いた2013年、日本の雇用者5201万人のうち非正規雇用者は過去最高の1906万人となった。雇用が不安定な上、賃金の安い非正規雇用がこれ以上増えれば、日本はどのような国になっていくのだろう。
かつて製造業が盛んだったころ、アメリカで自動車の都として栄えたデトロイト市は、今では破産宣告し失業率は40%、仕事に就いていても低所得者で街はゴーストタウンのようになっている。アメリカの後追いをし続ければ、経済の活性化どころか日本の都市もデトロイトと同じ道をたどらざるを得なくなるだろう。