JR西日本の寝台特急「トワイライトエクスプレス」が、来年の春に廃止されることになった。
北海道への出張に寝台特急を利用するようになってどれくらいになるだろう。京都に住んでいるので、チケットが取れれば京都~札幌間はトワイライトエクスプレスを利用し、さもなければ新幹線で東京へ行き、上野~札幌間をカシオペアか北斗星に乗る。また長崎や鹿児島へ行く時も廃止される前は寝台車を利用していた。
札幌に寝台車で行くというと、飛行機の方が早くて安いのに、とよく言われる。京都からだと、関西空港まで電車か、または伊丹空港までバスで行き、それから飛行機に乗って千歳空港から電車に乗り換える。それぞれは早いかもしれないが待ち時間も多く、待ったり急いだりといつも気ぜわしい。寝台特急に乗ってしまえば京都から札幌まで、またはその復路も、約22時間、ゆっくりと快適に過ごせ、シャワーを浴びてから到着地ですっきりと一日を始められる。
車内では仕事や物書き、読書や食事をしたり、眠る時間もたっぷりある。もし、あなたが少しでも移動時間を短くしたいという選択肢をとらなければ、車窓から美しい景色を眺めながら最高の時間を過ごせることは間違いない。
確かに割引運賃だと飛行機の方が安いが、普通運賃の場合はトワイライトエクスプレスのほうが若干安く、午前中の仕事に間に合うように前日移動でホテルに泊まるなら、寝台特急はその両方を提供している。しかし実際に多くの人が本当に問題にしているのは値段よりスピードだろう。だからこそ、「こだま」より「ひかり」、「ひかり」より「のぞみ」と、新幹線も高速化を続けてきた。
いずれカシオペアや北斗星の運行も廃止されると言われている。こんな素晴らしい鉄道サービスがなくなる最大の理由は、車窓から景色を楽しんだり休息するという「質」よりも、できるだけ早く目的地に着いてなるべくたくさんの予定を消化する(量)ことが重要視されているからだ。
その顧客の要求に応えるべく、ついに北海道新幹線が開業する。北海道新幹線が開通すると、北海道と本州を結ぶ青函トンネルの電圧が2万ボルトから2万5千ボルトに上がり、これまで寝台列車を引っ張ってきた機関車は使えなくなる。とはいえ、寝台車の機関車を新たに製造するにはコストがかかりすぎる。さらに新幹線開業にあわせて、在来線は第3セクターに引き継がれるため、線路使用料が高額になってしまうと聞く。これが現実的な寝台特急廃止の理由であろう。
ここに真の問題がある。トワイライトエクスプレスが姿を消すのは、もともと国営で行われていた鉄道サービスが民営化され、それによって株主という名の投資家や投機家のために、できる限り早く多くの利益を鉄道会社が上げなければならなくなったからである。そうなれば、利益率の高い分野に集中し、コストが高くもうからないサービスは廃止されてゆく。こうして、過疎地で不採算路線が廃止されるように、寝台特急も姿を消していくのだ。