No. 1084 大企業と外資のための「矢」

経済産業省が発表した商業動態統計によると、消費税が増税された4月の小売業の販売額は11兆160億円で前年同月比4.3%の減少、5月の販売額は11兆4300億円で同じく0.4%の減少となった。

前月までの駆け込み消費で4月は大幅に減少というのは誰もが予測していたことだが、5月になっても、業態別では百貨店が前年同月比2.6%減、スーパーが0.5%増、コンビニエンスストアは6.4%増であった。スーパーやコンビニは売り上げが回復しつつあるかのように見えるが、この調査は消費税を含んでいるため、実質はスーパーが前年同月比2.5%の減少、コンビニは3.4%増で、百貨店は5.6%減、小売業全体で3.4%の減少ということになる。

消費が増えない理由は明らかだ。総務省が発表した消費者物価指数を見ると、4月の消費者物価指数は前年同月比3.4%の上昇で5月は前年同月比3.7%の上昇と、連続して物価が上がった。日銀は2%の物価上昇を目指すと言っていたが、はるかに上回る勢いで物価が上がっているのだ。

消費増税だけでなく、安倍政権の円安誘導による石油やその他輸入品価格上昇の影響も大きい。

もちろん物価上昇に合わせて賃金が上がれば消費も増えるだろう。しかし厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によれば、5月の現金給与総額は0.6%増と、物価上昇率を差し引けばマイナスだ。

もう一つの興味深い政府統計は、内閣府が発表した機械受注総額である。民間設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の動向では、4月が前月比9.1%減、5月も同19.5%の減少となった。生産を増やしても消費が伸びないとみれば民間企業は設備投資を増やさない。唯一増えたのは政府による公共投資の22.4%増だが、政府が公共投資をしても日本経済の回復には大してつながらないほど、景気は停滞しているのである。

以上の統計は全て政府の発表した数字であり、誰でも調べることができる。これが日本経済の現状なのだがメディアはこれを報じることなく、依然として消費増税の影響による一時的な足踏み、短期的な落ち込みだとエコノミストや評論家に語らせている。そして政府は借金をし続けながら公共事業を増やし、大企業のために法人税を減税し、一般国民の賃金は頭打ちでもインフレを誘導し続ける。

安倍総理は英フィナンシャル・タイムズに「私の『第3の矢』は日本経済の悪魔を倒す」という論文を寄稿し、外資を呼び込むためにさらに法人税率を引き下げ、エネルギーや農業、医療分野を外資に開放することを言明し、働く母親のために家事を担う外国人労働者の雇用を可能にすると約束した。アベノミクスの第1、第2の矢と同様、第3の矢も、大企業と外資のためであって一般国民のために放たれるのではないのである。