No. 1086 資本主義という病

去る7月、TPPに関連する日米の自動車貿易と非関税措置、および農産物の市場アクセスなどの協議が米国で行われたが新たな進展は見られなかったという。

農産物については、米国の畜産・酪農団体から「例外のない関税撤廃」を求める声が相次いだようで、TPPに参加すれば農林水産業への打撃は避けられず、日本の地域経済・社会や食料自給率に大きな影響が及ぶだろう。中国の食品会社が使用期限切れの鶏肉を販売していたことが発覚し、中国産の安い食材に依存する外食産業は大きな打撃を受けたが、生きていく上で欠かすことのできない食料がTPPでより安価になれば、海外への依存度はさらに増すことは間違いない。

TPPの問題はそれだけでなく、国の法律が外国企業の利益を侵害する場合は、企業が加盟国を訴えることができるISD条項が含まれていることである。交渉がすべて国民に秘密で行われているため、そのほかどのような仕掛けがあるのかわからないが、漏えいした情報によれば、民営化の推進、著作権や特許権の強化、国内労働者への締め付けといった、大企業が推進したいアジェンダが並んでいる。経団連がTPP交渉の早期妥結をあおるのはそのためだ。

民主主義国家で、国民に秘密でこのような協定の参加交渉を政府が行うのは、日本が「代議制民主主義」であり、選ばれた議員が政治献金、接待や便宜、天下り先を提供されることで、その提供者である大企業や富裕層の代表として振る舞っているからであろう。そしてこの仕組みの根本にあるのが資本主義である。

資本主義とは、生産手段を持つ資本家が労働者を使用して利潤を追求するシステムである。労働者への分配が減る一方で、より多くの富と権力を資本家が持つようになったのが現代の「自由放任資本主義」であり、このような社会が一度確立すると、政府はさまざまな決定を資本家の利益を優先して行うようになる。従ってTPPが成立しなかったとしても、資本主義社会においては再度同じような協定が提案されるであろう。

また資本主義は経済の仕組みとして効率的ではない。経済の目的が、国民のニーズを満たすことではなく利益を生み出すことにあるため、生きていく上で欠かせない食料生産についても、例えば野菜が過剰に生産されれば、価格の低下を防ぐために廃棄し、利益のために人工的に不足を維持する状況を作り出す。豊作による野菜の値下がりで農家が困窮しないようにと、野菜の利用価値ではなく、交換価値の需要に合わせて調整が行われ、飢えている人がいたとしても食べられる食料を捨てるのが資本主義だということだ。

つまり、企業がより多くの利益を追求することを目的としたTPPは、資本主義という病の一つの症状にすぎない。TPPに反対するだけでなく、真の人間の安寧を損なわない、資本主義に代わるより効率的で平等な仕組みを求める声を上げることも必要であろう。