No. 1087 ロシアを悪者に仕立てる

去る7月17日、アムステルダム発クアラルンプール行のマレーシア航空の旅客機がウクライナ東部の上空で撃墜され、乗客は全員死亡した。ウクライナ政府は、旅客機はロシアに撃墜されたとし、一方、ロシアは「ウクライナ軍が撃墜した」と主張するなど、対立する二つの勢力がお互い敵側に責任を押し付ける展開となったが、それについてさまざまな見解が飛び交っている。

一つは、ロシアが関与した証拠がないにもかかわらずアメリカ政府はプロパガンダ活動を始め、ヨーロッパをロシアの侵略から守るとでも言わんばかりに東欧における膨大な軍事手段配備計画を発表したことだ。大量破壊兵器を保有している証拠がなかったにもかかわらず武力行使したイラク戦争を思い出させる。

しかしアメリカ国内でも、元共和党大統領候補であったロン・ポールのように、ロシアではなくウクライナ政府がマレーシア航空機を墜落させたことを示す衛星写真をアメリカ政府が隠しているかもしれないと指摘する声も出ている。アメリカの偵察衛星技術ならばモニターも可能で衛星写真を持っているはずだが、それが反ロシア・キャンペーンに使えないために隠蔽(いんぺい)していると言うのである。確かにウクライナには中央情報局(CIA)や米民間セキュリティー会社などが入り込んで訓練などを行っていると言われ、次期ウクライナ政権を親米派にする画策をして盗聴された米国務省ヌーランド国務次官補の言動を思い出せば、アメリカがロシアを悪者に仕立てウクライナを支援するという大義を掲げ、裏でイラク同様、ウクライナの利権を握ろうとしていることは十分に考えられる。

なぜアメリカはロシアを悪者に仕立て上げたいのか。一つの理由は、7月15日、ブラジルにおいて開かれたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議で5カ国首脳が署名した「新開発銀行」の設立である。これまでアメリカ主導の世界銀行とIMFが担ってきた国際金融秩序に対抗してBRICSが資金を融通し合い、いずれ5カ国だけでなくベネズエラやキューバなど長年アメリカにやられてきた中南米諸国も仲間入りをするだろう。これによって世界基軸通貨としての米ドルの地位が揺らぐことは間違いないし、首脳らは会談でウクライナ危機についても言及し、平和的解決に向けて包括的な対話を求めると述べたことなどから、経済だけでなく政治的にもアメリカに対抗する力となることは明らかだ。

あまりにも強欲で好戦的になりすぎたアメリカに対して、これまでアメリカから敵視または略奪されてきた国々が団結し、抵抗し始めている。その先頭に立つのがロシアと中国だ。イランやドイツが加わればユーラシア大陸のほとんどはBRICSの側につく。イランに経済制裁を加え、ドイツの首相を盗聴するアメリカ政府の行動を考えるとそれもありえなくはない。

ウクライナを理由にアメリカは第3次世界大戦を起こしたいのかもしれない。安倍首相の集団的自衛権はそのためかもしれない。しかし、たとえ戦争にならなくても、BRICS開発銀行の設立で世界情勢は大きく変わる。そしてアメリカの同盟国であり続ければ、日本は第2次大戦と同じく再び敗戦国となるのである。