No. 1089 社会的弱者への暴力

去る8月、アメリカのミズーリ州ファーガソンで、武器を持たない黒人少年が白人警察官に射殺される事件が起きた。この人種差別的な暴力行為に対して抗議運動が起き、抗議者と警察官との間で衝突が発生し、ここでも警察官は催涙ガスなどを使用し、またデモに参加した多くの抗議者が逮捕された。

デモ参加者の抗議は今回の殺害にとどまらず、過去、警察官によって起きた黒人や有色人種、さらには貧困者など社会的弱者への暴力に対する怒りもある。1991年にはロサンゼルスで黒人青年が警察官に凄惨(せいさん)な暴力を受けたが警察官が無罪評決となったことからロス暴動に発展した。当時と比べても、スマートフォンなどのカメラ機能を使い、市民が警察官の暴力シーンなどを撮影しインターネットで簡単に配信できるようになったことなどが抗議活動を大きくしている。

アメリカの差別問題の根は深い。国の成り立ちを振り返るとなおさらそれを感じる。コロンブスの「発見」により、もともと住んでいた多くの先住民族が殺害されるなど、最初の白人が来た時からアメリカでは残酷な拡大と帝国主義が続いているのだ。

ヨーロッパから来た白人にとって、先住民族はすべて野蛮人で殺しても構わないと大虐殺が正当化され、自分たちの理想の社会を実現するために、黒人奴隷という労働力によって農業の基盤を作り、工業を発展させてきた。またいつの時代でも、最低賃金の労働力として新しい移民が産業を支えてきた。1776年、独立宣言は平等をうたったが、土地を奪われた先住民族はアメリカ政府の同化政策への服従を強制された。有色人種に対する白人の優位性は、建国以来アメリカの指導者の中に根付いており、たとえ黒人が大統領になっていてもそれは変わらないようである。

アメリカは今、先進国の中で最も社会保障制度が不十分で、さらに貧富の格差は最大である。建国以来、支配者層による大多数の国民からの略奪が続いてきたが、特にレーガン大統領の時代になり、所得税率の引き下げやキャピタルゲイン減税など、富裕層は合法的に富を手にし、貧富の差はますます広がった。

アメリカの政府機関である緊急事態管理庁(FEMA)は、ハリケーンや地震などの災害時に人々を収容できるような施設を全米に造っていると言われているが、こつの施設が、実態は「反政府的な」人々を入れる強制収容所だという説がある。すでにアメリカは世界で最も受刑者が多く、全米では2000万人を超す人が刑務所に入っている。収容施設の本当の目的はわからないが、富裕層は自分たちが搾取する人々を恐れ、その抵抗を武力で威圧したいと思っていることは確かである。ファーガソンで起きていることはそのリハーサルにすぎないのかもしれない。