メディアの予想どおり衆院総選挙は自民党の圧勝に終わった。突然の解散選挙だったが、安倍晋三首相は安定過半数の確保を確信していたことは疑いない。これで今後4年間、強気でアベノミクスを推進していくことが可能になったのである。
1994年に導入された小選挙区・比例代表並立制により、今回の選挙も民意の反映よりも民意の集約が顕著となった。一つの選挙区から3,4人選ばれる中選挙区制なら少数の民意も一定の議席を確保できたが、小選挙区制では大政党が得票率よりもはるかに多い議席を獲得でき、少数政党への投票は死票となるからだ。2年間のアベノミクスでGDPがマイナスになるほど景気が悪化したのだから、その政策に反対の意思表示をするために現職政治家を落選させることが有権者の役目だと思うが、52%という投票率にあるように、有権者の半数は国政に無関心なのだから選挙制度の不備を嘆いてもしかたがないのかもしれない。
自民党は、2012年の衆院選挙では再生可能エネルギーの導入推進、TPP交渉参加反対といった公約を掲げたが、政権をとってからは路線を変更し、今回は明確に、17年には消費税10%引き上げ、原発再稼働、集団的自衛権の行使、TPPへの参加、そして沖縄の米軍普天間飛行場の辺野古移設推進などの公約を掲げた。選挙で勝ち、心置きなく同じ路線を強化していくのだろう。
日本の経済は7割が国内経済で成り立っているが、政府は世界を相手にした企業や世界に出て行く産業を拡大させる政策をとり、地方経済や一般国民の暮らしを犠牲にした。円安、株高で誰が恩恵を受け、誰の生活が負担増となったのかを冷静に見れば、それは明らかであろう。さらに円安が進み、年末に向けて食料品を含むさまざまな輸入品も値上がり始めている。これで原油価格が高騰していれば、日本経済はさらに打撃を受けていたかもしれない。
しかしこの原油価格の大暴落は、いずれ金融市場に大きな災難をもたらし得る。原油が半年で40ドルも暴落したのは世界の景気が後退し、経済活動が鈍化して石油の消費が減り、さらに石油産出国が過剰供給しているという背景がある。これが金融市場に打撃を与えるのは、金融派生商品に原油デリバティブが含まれており、原油価格の急落は金融派生商品の内部で崩壊が起きていることを示しているからだ。
デリバティブに組み込まれた原油先物取引が価格急落によりどうなるのかは、08年の金融危機を思い出せばよい。発端は、アメリカ金融機関が貸し付けた住宅ローンを担保にして証券化したデリバティブ商品の価値が、急落して焦げ付いたためだった。原油の暴落で、同じように巨額の損失を被る金融機関が出ることは十分に起こり得る。
パブリック・バンキング・インスティチュートのエレン・ブラウン女史によれば、アメリカの金融機関がデリバティブに投じている金額は298兆ドルにも上るという。3京5千兆円という途方もない金額であり、これが崩壊すれば世界経済は深刻な打撃を受けることは確実だ。15年、日本経済を揺らす火種はアベノミクスにとどまらない。