2011年の原発事故の後、エネルギー戦略の再構築が急務だとして日本が飛びついたのがアメリカの「シェールガス革命」だった。
天然ガスが安くなったアメリカに倣い、日本企業もアメリカのガス田へ直接投資してシェール革命に参画すべきだと提言する専門家もいた。しかし2年もたたぬうちに、シェールガスはつかの間のバブルであったことが明らかになりつつある。
去る9月、日本の大手総合商社が、12年に米テキサス州のシェールガス・オイル田に投資を行ったものの資金を回収できる生産量が見込めないとして、15年3月期の連結決算で減損損失1700億円を計上すると発表した。同社以外にも他の総合商社やガス会社など数社がシェールガス開発事業関連で損失または減益を計上している。
その理由は簡単だ。シェールガスは安い化石燃料ではなく、採掘してもコスト的に赤字になるからだ。もともと掘削が困難なため、採算性の面から石油会社ですらその開発には二の足を踏んできた。しかし2000年代に採掘技術が確立されたとしてシェールガスが言いはやされ、投資家から資金を集めた企業が争って参入したのだった。
問題は、普通のガス田なら産出量は毎年徐々に減少するのだが、シェールガスはわずか1年で65%以上減少してしまうことだ。それでも供給過剰になったのは、参入した企業が次々と新しい井戸を掘り続けたためであり、豊富な資源だったわけではなかったのである。
アメリカが天然ガス大国だと豪語するに至ったのは、カリフォルニア州には石油埋蔵量が154億バレルともいうモントレー・シェールがあり、アメリカ政府もそれにより多くの雇用と税収がもたらされると信じたからだとされる。しかし今年になってアメリカエネルギー省は、その原油埋蔵量の推計値を96%も下方修正し、採掘できるのは6億バレルにすぎないと発表した。
もちろんシェール革命に飛びついたのは日本だけではない。かつては石炭、そして近年では北海油田など豊富なエネルギー資源で純輸出国だったイギリスは、04年から資源の純輸入国に転じている。そのためイギリスでもシェールガス・オイル開発に沸いたが、13年にロイヤル・ダッチ・シェルもBP社も評価損を計上している。
投資の世界で「大ばか理論(Greater fool theory)」と呼ばれるものがある。資産の真の価値は重要ではない、なぜならその価値を上回っていても、それを買う(ばかな)人がいるから、話題になっているものを買っておけばいいという考え方だ。
しかし、ばかな人がいなくなった時に大暴落が起きて市場は崩壊する。見切りをつけた企業が、技術進歩を信じてシェール革命に投資を続ける企業に売却し、そしてその企業が次の買い手を見つけられなくなった時、それはおそらくそう遠くないうちにやってくると思われるが、その時こそシェール革命は終わるのであろう。