No. 1100 画策される戦争

ソニーの米映画子会社であるソニー・ピクチャーズ エンタテインメントへのサイバー攻撃が話題になった。

昨年11月25日付LA Times紙によれば、24日に従業員が職場でコンピューターにログインしたところ、赤いどくろのイラストと「GOPが乗っ取った」の文字が画面に映し出され、ハッカーが表示したとされる画面には、「これは始まりに過ぎない、要求が通るまで続ける」とあったという。ソニー・ピクチャーズの極秘情報を含む内部データを入手済みだとして「従わなければデータを公開する」と続き、その後、システムにログインできない状態となったらしい。

この報道から数日後に、ソニー・ピクチャーズが制作した北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記の暗殺を題材にしたパロディー映画との関連が取り沙汰され、12月になってFBIは北朝鮮の関与を断定した。そして今年に入り、オバマ大統領は対抗措置として北朝鮮の政府機関や企業に金融制裁を科す大統領令に署名したのである。

北朝鮮とその指導者の肩を持つつもりは全くないが、外国政府をサイバー犯罪の犯人だとして制裁を発動するには今回の事件はあまりにも根拠が曖昧だ。その証拠の一つは、犯人が使ったとされるマルウェア(悪意のあるソフトウエア)が、かつて北朝鮮が使ったものと似ているというが、マルウェアは部品単位で簡単に入手でき、北朝鮮が作ったとは断定はできない。また使われたIPアドレス(送信した機器を識別するもの)も、誰でも利用できるものだった。

一方北朝鮮が犯人なら都合の良いことがある。セキュリティーの甘さについて経営者もシステム担当者も言い訳ができるし、これを理由にアメリカ政府はインターネットのサイバー・セキュリティーを強化する新たな法律の施行へつなげられる。パロディー映画も結局オンライン興行され、ソニー・ピクチャーズは1月初めで興行収入3600万ドル(約43億円)を上げたというから、話題づくりにも貢献した。

制裁を加えるほどのサイバー犯罪なら、まずは明確な証拠をあげて国際裁判所に訴えるべきだが、アメリカが出している程度の証拠では北朝鮮を犯人と断定することはできないだろう。愉快犯的な行動から企業の内部犯行とみる専門家も少なくないが、大手メディアはアメリカの発表を報じるのみで、そういった情報はインターネットで探すしかない。

アメリカが信用できないのは過去に何度も事件を捏造(ねつぞう)してきたからだ。古くは米西戦争のきっかけとなった戦艦メイン号の爆発事件だ。アメリカは根拠もなくこの爆発をスペインが仕掛けたと決め付け、開戦してキューバとフィリピンを占領した。北ベトナム軍の哨戒艇がアメリカ海軍の駆逐艦に魚雷を発射したとされるトンキン湾事件もベトナム戦争に介入するためだったし、存在しなかったイラクの大量破壊兵器もイラク戦争を始める言い訳だった。

政府が捏造しメディアを通してうそを言い触らせば戦争は簡単に始まる。うそであっても繰り返し報じれば、人々はイラクや北朝鮮を敵国だとみなして戦争が正当化されるのだ。戦争は自然発生するものではなく、戦争により利益を得る人々によって画策されるのである。