昨年末に内閣府が発表した国民経済計算確報によると、日本の家計貯蓄率が2013年度、統計を取り始めた1955年以来初めてのマイナスになったという。
家計貯蓄率とは、所得のうち貯蓄に回された率のことで、ピークの1975年には日本は23%と世界でも高い貯蓄率を誇っていた。98年に1.1%、2004年には2.7%と低下傾向にあったが、今ではアメリカよりも低いマイナス1.3%となった。国民全体では貯金を取り崩して消費に回したということだ。
理由の一つには高齢化がある。現役を引退した高齢者は年金と貯蓄を取り崩すことで暮らしており、1970年には7%だった65歳以上の割合は2013年には25%にも達している。しかしマイナス貯蓄率の理由はそれだけではなく、所得の減少が大きい。
1989年にはパートや派遣社員などの非正規雇用者は労働者全体の19%だったが、2014年は37%にも増加した。正規雇用のサラリーマンの平均年収は468万円、非正規は168万円と300万円もの開きがあり、年金や退職金、社会保障もカバーされない。パートやアルバイトは学生や主婦が多数を占めると思われるだろうが、非正規雇用で働く25歳から34歳の男性は1989年にはわずか4%だったのが、2014年には17%にも増加しているのだ。
保障もなく、不況になれば真っ先にクビになる非正規雇用では、なおさら将来を考えて貯蓄をしたいと思うだろう。しかし正社員と比べて大幅に低い賃金ではそれも難しい。さらに所得減少に加えて消費税の増税、年金支給額の減額、社会保険料の引き上げなどで負担が増えれば今後貯蓄率が上がることは不可能に等しいといえる。
日本が高貯蓄率を誇っていた時代は、終身雇用、年功序列賃金であり、国民の大部分が「中流階層」を自負していた。しかし規制緩和で労働者を保護する規制が取り払われる中で、企業は正社員を減らし派遣社員に置き換えて利益を増やしてきた。その一方で非正規雇用の増加で貧困層を増やし、貯蓄率がマイナスになっても個人消費は落ち込み続ける、という悪循環がもたらされたのだ。特に2013年の貯蓄率がここまで落ち込んだのは、2014年の消費税増税前の駆け込み需要で消費に回ったと見ることもできるが、円安による物価上昇と8%の消費税で今年も貯蓄率低下傾向が続くことは間違いない。
円安に関連してもう一つ暗い統計がある。昨年内閣府が同時に発表した2013年の1人当たり国内総生産(GDP)は3万8644ドルで、経済協力開発機構(OECD)加盟国では19位と、前年の13位からさらに後退した。円安進行に伴いドルベースでの金額が縮小したのだから当然である。いくら原油価格が急落しても、円が安くなればメリットはなく、原油を買う円の価値が下がっているために物価も下がらない。日銀が追加で量的金融緩和を行えば円安に歯止めがきかなくなり、それによって困窮するのは国民の生活だけではなく、すでにGDPの200%もの政府債務を抱える日本が危機に直面する可能性はさらに高まるだろう。