No. 1110 ドル基軸制の終息

第2次大戦中の1944年に締結されたブレトン・ウッズ協定で米国のドルが世界の基軸通貨となり、米国は経済だけでなく、政治面でも世界のさまざまな国に介入し覇権国として振る舞ってきた。

米ドルを基軸とした固定為替相場制であるブレトン・ウッズ体制は、金によって裏打ちされたドルと各国の通貨の為替相場を一定に保つことで貿易を発展させ、経済を安定させるというもので、1973年に変動相場制へ移行するまで続いた。そして米国経済が危機にみまわれるなど不安定化したにもかかわらず、その後も米国はドルを世界通貨として君臨してきた。

しかしその状況を変える二つの出来事が起きた。一つは、中国が提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立、もう一つは、IMF(国際通貨基金)が5年に1度の再評価で、ドルやユーロに加え中国通貨を世界準備取引通貨に含めることを決める議論をこの5月から開始する予定であると発表したことだ。IMFは5年ごとに特別引き出し権(SDR)の通貨バスケット(現在はドル、ユーロ、ポンド、円)を検討することになっており、今年がその年である。そこに中国人民元を採用する可能性があるという。ロイター通信は「可能性」と報じたが、人民元が加わることは確実だろう。

これらが意味するのはドル基軸制の終息であり、中国を中心とした新興国も参加する新しい通貨制度へと変わっていくということである。米国は、昨年から同盟国に対してAIIBに加盟しないよう訴えていたが、イギリス、ドイツ、フランス、スイスをはじめ既に50カ国以上が加盟を決めた。西欧の資本主義諸国が中国主導の銀行に投資し、アジア経済活動の一部になろうとしているのである。

同盟国のイギリスがAIIBに創立メンバーとして参加すると発表したことは米国にとっては意外だったろう。しかし経済が停滞していたイギリスが過去2年間になんとか持ち直してきたのは、中国の民間資本がイギリスの不動産取引やインフラプロジェクトに流入したためだった。つまり中国からの投資なしにイギリス経済が復活することはなかったのである。

これまで米国は世界銀行とIMFを支配し、これらの機関が行った決定に拒否権を発動してきた。例えば米国が嫌いな国に融資をすることを拒否したり、他の国には融資をしてもそれらの国には緊縮財政を課したりした。それができたのも、ドルが基軸通貨であったためである。しかし日本以外のほとんどの国が中国主導のAIIBに参加したのは、そんな米国支配に嫌気がさしていたこと、そして自国の国益のために、これから伸びていく中国や新興国のパイの分け前を得るためであろう。

米国と、それに従属する日本はこの大きな変化に気づかないのだろうか。つまり覇権国としてふるまう米国が、第2次大戦後からとってきた軍事力で世界の国々に介入するやり方から、中国とロシア主導の、それほど豊かでない国とも寛大な平和的同盟を組む、より民主的なやり方を世界の国々が選ぶようになったということだ。

このAIIBの創設が、中国の天安門事件やソ連の鉄のカーテンの崩壊以上の影響を世界に及ぼすことを希望するし、実際にそうなると私は思っている。