No. 1112 安倍首相演説の矛盾

去る4月29日、安倍首相は日本の総理大臣として初めて米国連邦議会で演説を行い、日米同盟を「希望の同盟」と位置づけ、「米国と日本、力を合わせ、世界をもっとはるかに良い場所にしていこう」と訴えた。

米国が市場を開放してくれたおかげで、戦後日本は最大の便益を得たので、今度はTPPという自由貿易協定を通して市場を開放する、とも述べた。もちろんそれで大きな利益を得るのは米多国籍企業である。農民の平均年齢が66歳を超え、先細りとなっている日本の農業は、TPPにより最後の一撃を加えられることになるだろう。

戦後、米国から大量の食料を輸入するようになって日本の自給率は大きく下がり、1964年には70%以上だった自給率はもはや40%を切り、世界の主要先進国の中でも最低水準となった。これは日本人の食生活が、米や野菜などの自給可能な食料を中心としたものから、欧米のように加工食品や肉などに変化し、原料や飼料のほとんどが輸入品となったためである。

TPPでさらに輸入が増えて国産農産物の需要が低下すれば、国内の農地面積や生産者数は今以上に減少し、食料供給基盤そのものが揺らいでいく。すでに食料価格高騰の影響が出始めているが、今後世界の食料価格が高騰すれば、各国は自国の需給を優先するため輸出を抑制し、輸入に頼る日本の食料供給に大きな影響が及ぶことは間違いない。

また日米同盟に関する安倍首相の演説は矛盾に満ちていた。アジアの海について、3つの原則として、まず国家が何か主張をするときは国際法に基づいてなすこと、次に武力や威嚇は自己の主張のために用いないこと、そして3つ目として紛争の解決はあくまで平和的手段によること、と述べた。

しかし日米同盟という名の下で自衛隊が米軍に協力するということは、国際法を無視することであり、武力や威嚇をすることであり、米軍が世界の各地で行っているように、非平和的手段で紛争を解決することなのである。

笑顔を振りまきながら「積極的平和主義」を言いはやし、世界の平和と安定のためにこれまで以上に責任を果たしていくと米議会で語った安倍首相は、すでに国内では特定秘密保護法、国家安全保障会議、集団的自衛権行使容認の閣議決定、憲法改正の法的手続き上の整備などのお膳立てを着々と整えてきた。2014年12月、衆院選が終わったわずか数日後には、海外に武器を輸出する日本企業へ、長期で低利融資を行う支援金制度の創設を防衛省が検討しているという報道がなされた。これは昨年4月に閣議決定された、武器輸出を原則容認する「防衛装備移転三原則」を受けたものである。

敗戦から70年という節目の年、日本の総理大臣が勝利国の議会で行ったのは日米同盟の名の下に米国の戦争に協力する準備ができているという演説だった。積極的平和主義の本質をむき出しにするかのように、日本は新たな段階に踏み込んだのである。