No. 1115 飛行機のセキュリティ

200人以上の乗客乗員を乗せたマレーシア航空MH370便が消息を絶ったのは2014年3月のことだった。1年以上たった今も機体は発見されておらず、またマレーシア航空、マレーシア政府、そしてアメリカのボーイング社のいずれからも、何が起きたのか詳しい真相は発表されていない。

マレーシア当局の発表では、最初はインド洋南部に墜落したとされ、同海域で捜索が行われたが見つからなかった。同7月、別のマレーシア航空の旅客機がウクライナで撃墜されるという事件が起きてからは、行方不明になったマレーシア航空機のニュースはほとんどメディアから姿を消した。

その後も飛行機事故が相次いだ。同12月にはマレーシア格安航空会社エアアジアの旅客機がインドネシア沖に墜落した。今年2月には台湾、トランスアジアの航空機が離陸直後に墜落、3月にはドイツのジャーマンウイングスの航空機が墜落している。これほど飛行機事故が相次いでも、飛行機は車や自転車に比べると安全な乗り物だと言われる。なぜなら飛行機がきわめて高度なコンピューター技術により飛行サポートがなされているからだ。

しかしこの4月、その飛行をサポートするコンピューターが飛行機を危険にさらしている可能性を示す事件が起きた。クリス・ロバーツという米国の航空コンピューター・セキュリティー研究者が、搭乗していた飛行機の機内娯楽システムから制御装置をハッキングし、フライト中に搭乗機を左右に揺らす動きを引き起こした疑いで連邦捜査局(FBI)に拘束されたのである。ロバーツ氏は、機内の娯楽システムをハッキングしたあと、飛行機のネットワークの他のシステムに接続して飛行機を上昇させるコマンドを発行したという。

ロイター通信によれば、機内WiFi(ワイファイ)サービスの提供がハッカーによる航空機への遠隔アクセスを可能にしているとの懸念を示している航空会社幹部もいるといい、ロバーツ氏の行為が発覚したのも、ワイファイを使い機内で自分がハッキングすることをツイートしたために到着地でFBIに拘束されたのである。ハッキングした機内娯楽システムを製造したメーカーは、システムの安全性は証明済みだとしているが、セキュリティーの専門家は、こうしたシステムが完全にハッキングを回避できるかどうか疑問を抱いているという。

航空業界では、インターネットで使用されているような通信プロトコルを導入して飛行機と地上管制をつないでいる。そのためあらゆる業界と同じく、飛行機もセキュリティー面で脆弱性にさらされており、爆弾を持ち込まなくても、極論をいえばスマートフォンで自爆テロ行為が可能ということになる。

最近の飛行機事故の原因は明確にされていないが、言えることはコンピューター制御で安心なはずの飛行機が、コンピューターを介しているからこそ危険になったということだ。セキュリティー研究者のロバーツ氏は弁護士を通し、自身の関心は「航空機のセキュリティー改善」だけにあると述べているというが、ハッカーがパイロットや管制官に誤った情報を与えることができないようなシステムの開発が急務である。