去る5月、中谷防衛相と米カーター国防長官がサイバー攻撃に対する日米の防衛協力を強化するための共同声明を発表した。国家の安全を脅かすサイバー攻撃が発生した際に日米で協力してそれに対処するというものである。
現代社会はもはや、コンピューターや通信システムなしには成り立たない。軍の通信システムだけでなく、コンピューター制御の電力送信網が攻撃を受ければ、通信、輸送、医療全てに影響が及ぶ。日米両政府は原発や空港などの防衛も含めて、数年前からサイバー攻撃に対する協力強化を打ち出してきた。
日米政府の防衛協力は、米国または日本が外国からサイバー攻撃を受けた場合を想定しているが、現代のインフラはあまりにも多くの精密機器に支えられており、米国の後ろ盾を得たとしても簡単に社会が機能不全に陥る可能性がある。
それだけでなく、機器の内部に不正侵入して利用者の意図しない動作をコンピューターに命令するというサイバー攻撃もある。飛行機もそうだし、自動車も近年は「コネクテッドカー」と呼ばれる、3Gや4G、WiFiといった接続機能の備えられた車両が増えている。これにより、カーナビや安全運転支援などの機能を利用できるようになるのだが、サイバーセキュリティーの観点からみると自動車を遠隔地から乗っ取ることも可能になるということだ。
米ゼネラル・モーターズ(GM)は昨年秋、初めてサイバーセキュリティー担当責任者を任命したという。なぜならハッカーやセキュリティー専門家からなるグループが、GMなどの自動車メーカーに、自動車をサイバー攻撃から保護するための基本方針を示すよう求めた公開書簡を送ったからだ、とロイター通信は報じている。また4月には英通信大手BTが、サイバー攻撃を受ける可能性のあるコネクテッドカーへのハッキングを未然に防ぐサービスを提供開始したという。
自動車へサイバー攻撃が実際になされることはないと考える人もいるだろうが、それは楽観的だ。自動車への電子的な手法による攻撃も報告されており、例えば盗難防止のための電子キーを瞬時に無効にするハッキング装置などが既に出回っている。
2013年6月、米国人ジャーナリスト、マイケル・ヘイスティング氏が自動車暴走事故で死亡した。イラクやアフガニスタンについて米軍による残酷な戦争の実態を暴き、危険を顧みず戦争犯罪や国家権力に対抗した記事を書く報道記者であった。事故直後からFBIが詳細を報じず、テロ対策に従事した元大統領補佐官リチャード・クラークが自動車のコントロール・システムをハッキングすることは比較的簡単で、ヘイスティングスの車がサイバー攻撃を受けたと考えても矛盾はないとコメントするなど、暗殺説が流れていた。
もちろんこの事故がサイバー攻撃だったという証拠はない。しかし、遠隔から車を乗っ取り、恣意的に暴走させることが簡単にできること、そしてサイバー攻撃は国家間の脅威であるだけでなく日常の中に潜んでいるということをわれわれは理解しておくべきだ。