国民一人一人に重複しない番号を付け、それに個人情報を帰属させて国民の個人情報管理の効率化を図るとして、政府は今年10月からマイナンバー制の導入を決めた。
戸籍の情報の他、所得、健康保険証、パスポート番号や運転免許証、金融口座などをこの番号で管理することで行政遂行コストが下がり、一方、国民のメリットは自分の情報の確認や訂正が簡単になることだという。しかし先月、日本年金機構から年金加入者の個人情報が漏えいする事件が起きるなど、マイナンバー制についても懸念の声が出ている。保管された各種の個人情報を国民が簡単に確認できるということはネットワークを利用しているからであり、ネットワークに接続していれば年金の個人情報と同じように情報流出やウイルス感染の危険性は避けられないからだ。
政府が国を運営していく上で、国民の情報を集めることは必要不可欠である。さらに税金で運営している国が脱税などを防ぐ制度として導入していくのであれば、私は問題はないと思う。しかし、なぜ多くの国民が心配しているのかといえば、この重要な制度を広く深く審議することなく、また国民に詳細を説明することなく導入が決定されたからであろう。
だが考えてみると政府の最近の行動は、マイナンバーに限らずほとんどが秘密主義で行われている。多くの人々が避難を強いられている福島の原発事故が今どのような状況にあるのか、放射能による土壌や海水への汚染はどの程度なのか。これら環境や国民の健康、生命に重要な情報を政府は国民に広く正しく知らせているだろうか。また国家の主権をゆるがしかねないTPPの交渉は完全に密室の中で行われているし、多くの国民が納得していない戦争法案をつくり、日本を米国の永遠の戦争に巻き込もうとしている。
マイナンバー制に話を戻すが、どんな個人情報でも、情報漏えいまたは情報窃盗を完全に防ぐことはできない。つい先頃も米国政府のコンピューター・システムに不正侵入があり、2千万人を超える公務員の個人情報が盗まれた。その中にはマイナンバーにあたる社会保障番号も含まれ、米国政府は外国の情報機関などに悪用される恐れもあるとして危機感を強めているという。どのような情報システムでもハッキングを受ける可能性があるが、情報がなければ、またはコンピューターでその情報を管理しないとしたら、現代社会はもはや成り立たないのである。
マイナンバー制によって政府が違法な監視をしたり、国民の資産を把握したりすることで、政府の債務を解消するために預金封鎖を行うのではないかという懸念の声もあるが、日本は憲法で「主権在民」、国政のあり方を最終的に決めるのは国民のはずである。民主主義の日本において、選挙で選んだ政府を信じられないことがマイナンバー制への不安や不満の原因なら、国民は選挙で今の政治家を落選させ、最大多数の国民のための政策を要求して別の政府を選ぶことを真剣に考えるべきだと思う。