No. 1121 ギリシャ国民投票

財政危機に直面したギリシャは7月5日、金融支援の条件として欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行の「トロイカ」が求めていた年金カットや増税という国内改革案の是非を問う国民投票を行い、反対が賛成を大きく上回った。トロイカ側は、ギリシャは債務を返済する以外に道はないと主張してきたが、ギリシャ国民は生活をさらに困窮させる改革案を拒否し、債務不履行を選んだのである。

ギリシャの債務がここまで悪化したのは、2001年にギリシャがユーロを導入したことにさかのぼる。ユーロ圏になるには財政赤字が国内総生産(GDP)比で3%以下という条件があったが、ギリシャの財政赤字は10%を超えていた。そのギリシャに米国の投資銀行ゴールドマンサックスがお金を貸し付け、いわば粉飾決算でギリシャはユーロの仲間入りをしたのである。

ギリシャの金融危機の原因はギリシャ政府の手厚い福祉政策や怠惰な国民性であり、国民投票は借金の踏み倒し、などとも言われた。しかし発端は米国の巨大金融資本による融資にあった。2009年、ギリシャで政権が交代して旧政権の粉飾決算が暴露され、いわゆる一連のギリシャ金融危機が始まった。EU、IMFが金融支援をする代わりにギリシャ国民には緊縮財政が課せられ、公務員の給与カット、年金削減などが行われた。これによりギリシャ経済はさらに低迷し、2010年のGDPは前年比25%も減少した。一方、ゴールドマンサックスは利子付きで融資を回収し、ギリシャ国債の空売りでも莫大な利益を得た。

ギリシャに債務返済を迫ったトロイカだが、実はギリシャが債務を返せないことを知っていた。なぜなら、ギリシャ債務を評価したIMFは、債務削減など大規模な軽減策が実施されない限りギリシャ債務は持続可能にならないと評価していたからだ。債務を返済するには経済成長が必要だが、債務を抱え、緊縮財政をとるギリシャにおいて経済成長は不可能だった。

国民投票の数日後、ギリシャのチプラス首相は、国民がNOを突きつけたトロイカの要求案をほぼ受け入れる内容の財政改革案を提出した。これはギリシャ国民への背信行為である。また財政緊縮だけでなく、ギリシャ政府が保有する国営資産の大規模な民営化を行い、ガス、石油、電気水道、鉱山などを売却し、そこで得られた資金を債務返済に充当するというものだ。

ギリシャの国民投票で多数の国民が拒否したにもかかわらず、それを政権そのものが裏切りトロイカ案に合意したのだから、ギリシャ国民の絶望感は想像に難くない。選挙で国民が選んだ政治家が国民の側にいなければ、民主主義は機能しない。世界のあちこちで、一部の人間による多数の略奪が加速している。国民の多くが反対していても安保法案を成立させようとする日本も、例外ではない。