No. 1123 モノのインターネット

技術進歩によって自動化が進み、最近ではインターネット技術やセンサー技術の進化により製造現場だけでなく車や家電、スマートフォンなど、身の回りのさまざまなモノがインターネットにつながり始めている。

それはInternet of Things、「モノのインターネット」と呼ばれ、従来はパソコンやプリンター等のIT関連機器に接続して使われていたインターネットがテレビやデジタルカメラ、スマートフォンに接続されることで企業だけでなく道路渋滞の解消や犯罪防止など、社会の問題にも解決策を提供するとして注目を浴びている。

その期待が膨らむ新技術だが、すでに米国では懸念される問題も起きている。たとえば7月、米国食品医薬品局(FDA)は病院などの医療機関に対して、ある医療メーカーが提供する点滴システムの使用を禁止する警告を出した。この点滴システムはコンピューター化されたポンプにより薬剤を継続的に血管に入れるようになっているが、FDAによれば点滴システムはインターネットに接続する院内の情報システムと有線または無線接続で通信を行っており、その情報システムがハッカーのハッキングに対して脆弱性があるというのだ。

「モノのインターネット」の一つであるこのポンプが、病院のネットワークを通じて遠隔から不正アクセスできるということは、不正なユーザが点滴装置を操作し、それによって薬剤の過剰または過少投与もできてしまうことであり、患者にとって死に至ることもありうる。幸いにも現時点でそのような事態は発生していないというが、ネットワークが大規模かつ複雑になるにつれ、電源喪失やシステムダウンといった事故だけでなく、セキュリティーという大きな問題が生じてくるのである。

また7月には、米Wired誌の記者が乗るクライスラー製のジープをセキュリティー研究者が自宅からPCを使って遠隔操作した実験結果が発表された。記者がダッシュボードには一切触れていないのにエアコンから冷風が吹き出し、ラジオが大音量で鳴り響き、続いてアクセルが効かなくなり車は減速、これらはすべて、車に搭載されているインターネット接続機能の脆弱性を突いて行われた実験だ。車両のIPアドレスさえ分かればどこからでも無線でシステムにアクセスできてしまうというのである。

研究者はクライスラー社と情報を共有していたために、この記事が公開される前に同社はこの脆弱性のあるソフトウエアのアップデートを公開し、その後140万台の車をリコールしたという。しかしこの実験から、インターネット接続のコンピューター機能をもっている車は遠隔から無線で乗っ取りが行えるということが実証されたわけである。

これら研究者の発表を受けて、米国では上院議員がハッカーから車を守るための新しいセキュリティー基準を設けるという法案が出される動きもある。しかし悪意のあるハッカーの攻撃から100%身を守るには、点滴システムの使用を止めるように、インターネット接続機能のある車に乗らない以外方法はない。言い換えると、期待の高まる「モノのインターネット」だが、安全な活用には、セキュリティーやプライバシーの問題をどう解決するかという課題があるということだ。