No. 1124 米国のスパイ行為

去る7月、内部告発サイト「ウィキリークス」が、米国の情報機関である国家安全保障局(NSA)が、日本の政府や企業の電話を少なくとも2007年以降盗聴していたことを発表した。

ウィキリークスのホームページで、「ターゲット東京」として公表されたNSAが盗聴していたという先は35回線で、内閣府、官房長官の秘書官、財務省、経済産業省、日銀、そして大手商社のエネルギー部門など多岐にわたった。

これが示しているのは、いかに米国が日本を監視しているのかという一言に尽きる。農業の輸入における論争や世界貿易機関(WTO)のドーハラウンドにおける日本の交渉上の立ち位置、気候変動における政策、原子力政策や二酸化炭素排出に関する計画等々、安倍首相の公邸で行われた打ち合わせまで米国は盗聴していた。さらにこれら情報の一部を、米国を含めてファイブ・アイ・と呼ばれる英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドにも共有していたというのである。

米国のスパイ活動は、太平洋戦争中に日本軍の暗号無線交信が連合軍に傍受、解読されていたことは周知の事実である。また今回、米国が情報を共有した英語圏の国々による電子スパイ「エシュロン・システム」は、15年以上も前から欧州議会などで問題視されてきた。そのためウィキリークスにより露見した米国による日本へのスパイ行為は、“意外ではない”と報じる海外メディアもあった。

日本政府の反応は、「仮に事実であれば同盟国として極めて遺憾だ」と、お決まりのコメントの発表で終わったが、問題は政治家だけでなく、企業に対してもスパイ活動を行っていたことだ。過去にも米国はエシュロンを使いドイツの風力発電機メーカーから企業機密を盗んだり、フランスのエアバス社の契約が米国のライバル企業に持っていかれたりした前例がある。このような産業スパイ行為にも、日本政府は遺憾だと手をこまねいているだけなのであろうか。

いずれにしてもウィキリークスの発表で、米国が日本を信頼していないこと、それゆえに監視、盗聴を行っていることが衆目にさらされた。そしてそんな米国のために、安倍首相は同盟関係を強化するとして安保法案の意義を強調している。中国の脅威に対抗した安全保障のためにだというが、日本が挑発をしなければ、広大な中国が天然資源のない小さな国を侵略するメリットがあるとは思えないし、核を保有する中国との戦争に日本が勝てるわけもなく、国土は破壊され、国民の命が失われるだけであろう。

ウィキリークスが発表したことは米国が行っているスパイ行為の一部に過ぎない。電話に限らず、電子的に行われている通信はすべて傍受されていると思ってよいだろう。ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ氏はこの盗聴について、「日本にとっての教訓は、世界の監視大国(米国)が日本に礼儀や敬意を持つのを期待するな、ということだ」と記しているように、米国から日本政府へ弁明も謝罪もないということは、まさにその通りだと言うしかない。