No. 1127 大恐慌再認識すべき時

8月中旬頃まで2万円台を推移していた日経平均株価は、8月25日に1万8000円を割り、その後値を戻したが再び続落するなど乱高下を繰り返している。

2012年12月、安倍内閣は「デフレからの脱却」と「富の拡大」を実現する経済政策としてアベノミクス「3本の矢」を放った。第一の矢は量的緩和策で、世の中に出回るお金を増やして株価を上げ、景気を回復させるというもの。第二の矢は、国のインフラ事業、つまり土木工事などに財政資金を投入し雇用者を増やす。そして規制緩和と民営化をさらに進めることで企業の投資を促し、新たな市場を創出するというのが第三の矢だ。

去る7月8日には国家戦略特別区域法の改正案が可決され、“女性の活躍推進のために”外国人労働者が家事支援の理由で日本に入国・在留ができるようになった。しかし外国人の家事手伝いを雇用できるような高給を得ている女性労働者がはたしてどれくらいいるのだろう。日本の雇用者のうち3人に1人は非正規労働者でその割合は増えつつあり、さらに女性の場合は過半数が非正規労働者である。正社員に比べ低い賃金で雇える非正規労働者は企業にとって都合がよく、2014年の厚生労働省統計では平均賃金は正社員の63%であり、労働時間等により公的保険や年金、法的福利厚生を非正規労働者には適用する必要がなく、また業績によって削減も容易にできる。ここに外国人労働者が加われば、賃金のさらなる低下は避けられないだろう。

1929年10月、ウォール街での株式暴落をきっかけに米国は大恐慌に突入した。第1次世界大戦後、米国は繁栄をきわめたが、最大利潤を求める資本家がコスト削減の目的で賃金を低く抑えたため労働者は十分な消費ができず、国内経済は停滞していった。資本家に蓄積された富は有価証券投資にまわり、レバレッジを活用した投機が広まっていた。これによりさらに膨れ上がった資金が株式に投じられ、1929年9月3日にはダウ平均株価は最高値の81.17ドルにもなったが、3カ月後の11月13日には198.60ドルと半値に暴落したのである。そこまで下がれば底値だと多くの人は思うが、しかし実際はその後も下がり続け、3年後の1932年7月には58ドルまでになった。

日本の株価の急落がアベノミクスによって上がった短期的なバブル崩壊で、国内経済が強固であればその影響は小さいだろう。しかしもしこれが大恐慌の始まりなら、株とは関係がないと思っていた多くの一般国民が、企業倒産の連鎖で職を失い、物価が暴騰し、担保の差し押さえが起きるという状況になった86年前のような恐慌が、今後数年にわたり続いていくことになる。

経済学者ガルブレイス氏の「大暴落1929」に当時の様子が記されているが、86年前の話とは思えないほど、所得格差やレバレッジの活用など現代の状況と酷似している。混沌としている今、1929年の大恐慌を再認識することは有効かもしれない。