日本政府が推し進める「新自由主義」とは、企業にできる限り多くの自由を与えて活発な創意工夫による経済成長を期待するというものである。それに対するのが民間部門に政府が積極的に関与するという考え方だ。
小泉政権以後、市場における経営の自由の拡大により、より良いサービスが安価に提供されるという触れ込みで、郵政民営化が行われた。しかし実際には利益にならないことは廃止され、利便性は低下し、国民にとってのメリットはほとんどなかった。また規制緩和により、製造業への派遣労働も解禁され、「日雇い派遣」などさまざまな非正規労働が可能となった。非正規雇用者なら、企業は保障を提供する必要もなく、不況になれば簡単に首を切ることができる。安倍政権のアベノミクス、そして環太平洋連携協定(TPP)は、まさにこれらをさらに強化するものだ。
政策において自由主義と政府主導ではどちらが良いかという議論がなされるが、この現実をみれば、その二つは別物ではないことは明白だ。つまり政府の介入のない市場はなく、市場のルールを決めるのは政府であり、最大の問題はその決定者である政府に対して誰が最も影響力を持っているかということなのである。
そして今、政府に最も大きな影響力を持つのは誰かといえば、大資本、大企業であり、だからこそTPPのような協定が各国政府間で合意に達したのだ。
合意に至ったというTPPの内容を、国民は知らない。なぜならTPP交渉の参加国が結ぶ守秘義務契約で、交渉終了後も4年間は交渉内容を口外しないよう求められているからだ。しかしその一方で、大企業幹部など政府にアドバイスする立場の民間人は守秘義務の例外と規定されている。
TPPによる国民への影響は農林水産物に限らない。雇用や食品の安全、医薬品といった国民生活の隅々にまで及び、特に多国籍企業が進出先の政府を国際仲裁機関に訴える権利を保障するISD(投資家・国家訴訟)条項により、外国企業が主権国家よりも優位に置かれる。(国家は民間企業を訴えることはできない)この徹底した秘密主義で行われたTPPは交渉内容が明らかにされることなく、また、国会審議の手続きを踏むことなく、日本政府によって大筋合意したという事実は、日本政府に対して誰が最も影響力をもっているかは明らかだろう。
自由主義や自由市場を掲げる人は、全ての取引が政府や権力による強制で行われるのではなく、望むものが自発的に取引を行い、そして個々の人間が利益追求を目的に自由な行動を取ることが、金銭的かつ社会福祉的利益の点からして最大の結果を産むと言う。
しかしその結果とは、TPPに含まれるISD条項により、例えば日本政府が遺伝子組み換え食品を禁止すれば、米国企業から訴えられるということであり、人体に危険な農薬の使用を日本政府が禁止したくとも米農薬メーカーから訴えられるということであり、国民健康保険さえも、米大手保険会社が障壁だと指摘すれば、訴えられる可能性があるということなのだ。新自由主義が企業に自由を与えることは間違いなく、それこそが日本政府の取っている政策なのである。