No. 1131 TPP批准を阻止へ

去る10月5日、米国アトランタで行われた環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合が大筋合意にこぎ着けたと報じられた。

2012年の衆院選では、自民党は当時政権をとっていた民主党に対し、国の主権を損なうISD条項には合意しないとして「TPP交渉参加反対」を公約にした。しかし政権をとると、安倍総理は13年に交渉参加を表明、合意へと突き進んだ。

秘密交渉であるTPPの詳細を一般国民は知らない。しかし内部告発サイト「ウィキリークス」の情報のみならず、多国籍企業が投資先の国の政府によって不利益をかぶったと考えた場合は、その政府を相手に訴訟を起こす権利を認めたISD条項が盛り込まれていることは、もはや周知の事実である。安倍政権はそれを知りつつ、公約を破って合意をしたのだ。

TPPに反対する国民の声に耳を貸さないのは、9月に安保法制を成立させた時と同じである。それにもかかわらず、NHKや大手新聞各紙はTPPの合意を「日本経済への恩恵も大きい」、「長い目で見た地域の成長や安定につながる」などと、プラス面のみを大きく報じたのをみると、主要メディアがもはや政府の広報担当であることが分かる。

しかし、まだTPPが批准されたわけではない。米国でさえ、民主党の大統領候補とされるヒラリー・クリントンはじめ、TPPに不賛成の議員が出ており、多くの農民や市民グループが抗議声明を発表している。同様にオーストラリアやニュージーランドでも反対市民の運動が活発化している。

今回の合意で日本は、自動車産業の権益を最優先し、農業分野はコメの無関税の特別輸入枠を設けるなど大きく譲歩した。安いコメが流入すれば稲作農家への打撃は計り知れず、また牛・豚肉、乳製品も関税を引き下げ、輸入枠拡大となれば畜産農家も 安価な輸入品との戦いを強いられる。

原産地表示や遺伝子組み換え(GMO)作物の表示も禁止される可能性がある。欧州には共通の法規制があるが、GMOについては各国個別の方針を採用する ことが認められている。国際環境NGOグリーンピースによれば、TPPに相当する環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉中である欧州では、遺伝子組み換え作物の 自国内での栽培を禁止する国が続出しており、ロシアは加工食品へのGMO作物の使用も禁止するという。

日本の農業を破壊し遺伝子組み換え食品受け入れなど食の安全を脅かし、国と企業の紛争を民間の弁護士が仲裁して米国企業が経済を主導するための土俵づくりがTPPだ。政府与党は、国民は公約も覚えていないし、次の選挙までにTPPも安保法制も忘れるだろうと思っているのかもしれないが、TPPの批准を阻止するには、合意に賛成した議員を次の選挙で当選させないという方法がある。それによって国民主権を政治家に示すしかない。