今年10月、スイスの金融機関「クレディ・スイス」が恒例の「グローバル・ウェルス・リポート」2015年版を発表した。それによると、全世界の半分の富を所有しているのは上位わずか1%の人だという。
このリポートで取り上げているのは、所得ではなくタイトルにあるように「ウェルネス」、すなわち有価証券を含む金融資産や動産、不動産などの資産額である。そしてわずか1%の超富豪が世界全体の資産の半分を所有し、上位から10%の富豪が世界の87.7%の資産を所有しているという。日本でも平成になってから、賃金、所得、富といったどの指標をみても一部の富裕層の占める割合が増加し、残る一般国民の暮らし向きは相対的に悪くなっているが、それは世界的な傾向なのである。
クレディ・スイスの推計では、世界の半分の人は、資産から債務を引いた純資産が3210ドル(40万円)以下だという。そして欧米にはこの範囲より下の、借金の方が大きいためにマイナス資産となる人が数多く存在する。近年アメリカでは学生ローンを抱える若者が増え、平均で1人約3万5千ドル(約430万円)、学生ローンの債務残高は1兆3千億ドル(160兆円)にも上る。クレジットローンや住宅ローンも多いため、資産額からみると世界の最貧層の10%が米国人、20%がヨーロッパ人なのである。
一方中国には、資産額でいうこうした最貧層はほとんどいない。そして資産が9万ドルから50万ドルの「中間層」が中国では急増した。日本を訪れる中国人観光客が増えたのも、中国で中間から中流上位層が増えたからにほかならない。
欧米人が借金をするのは、本来なら買えないものを、お金を借りて購入するからであり、他の皆もそうしているし、なによりも政府がそれを奨励しているためだ。アメリカでは2008年からゼロ金利政策がとられており、ヨーロッパではさらにその上のマイナス金利をとっている国が出始めている。
普通ならお金を借りると利息を支払い、お金を預けると利息がもらえる。しかしマイナス金利はお金を借りると利息がもらえ、お金を預けると利息を支払うという、常識の逆の世界である。ヨーロッパの一部の国では中央銀行への預け金がすでにマイナス金利となっているが、借金を奨励するこの政策は、長期的に想像を超える問題を引き起こすことになるだろう。
国民に借金を奨励する政策をとっている政府そのものがよい見本であろう。米国政府の債務は18兆ドル(約2千兆円)を超え、さらに地方政府や特殊法人の債務を含めると債務は40兆ドル以上(5千兆円)ともいわれている。富の大部分がごくわずかの人の手中にあり、ほとんどの国民の純資産がマイナスで政府も巨額の借金を抱えている国が世界で最も豊かな国であるはずはないが、それが「自由の国」のやり方なのかもしれない。