No. 1137 技術革新で雇用減少へ

米国で『ロボットの脅威―人の仕事がなくなる日』(マーティン・フォード著)という本が話題になっている。技術革新により、小売りや医療、サービスなどの労働集約型産業を除くと、多くの産業が労働者をあまり必要としない資本集約型へと移りつつあるのだ。

これまで先進国が物質的に豊かになってきたのは、技術進歩によって生産性が上がり、製品やサービスの価格が安くなって消費者がその恩恵を享受できるようになったからである。消費の種類が増え、さまざまな産業、そして雇用が生まれるという循環であった。しかし技術革新が労働集約型産業にまでも及んできたら、この循環はどうなるのだろうか。

デジタル化が進みインターネットで音楽が配信されると、レコードやCDを販売する業界は雇用も売り上げも減少の一途をたどった。コンピューターやネットにアクセスする消費者が増えれば増えるほど、これからも売り上げは減り続けるだろう。またネットを経由する販売は実店舗の売り上げに影響を及ぼすだけでなく、電化製品が故障すれば以前はサービスマンに連絡をして修理に来てもらっていたところを、最近ではネットで修理方法を教えるサイトを見つけて自分で直す人も増えているという。私自身も、お金を払って修理を頼む前に、まずは情報を探すことが普通になった。ネットの情報は玉石混交と言われているが、人々がそれを使い込むほど情報活用能力は上がっていくだろう。そして一つ一つは小さなことかもしれないが、これらのトレンドを合算すると、失われる雇用や売り上げはかなりの金額になることは間違いない。

20年以上長引く日本の不況の原因の一つは、生産能力が需要をはるかに超える段階に達したためである。生産量拡大能力は、製品への需要や購買意欲よりもずっと速いスピードで増えた。この原稿を書くために使用しているパソコンなど、40年前の大型コンピューターよりも性能が高い。40年前にはロボットなどなかったが、現代はコンピューターやロボットなど高性能な機械を使ってさまざまな製品やサービスが安く提供されている。しかし人間自体は大きく変わってはいない。いくら供給される製品やサービスが増えても、それと同じ速度で需要を増やすことなどできないのである。

また忘れてはならないのは、経済や社会は、雇用が提供されて初めて成り立つということである。製品やサービスは、それを消費する人たちが必要だ。ロボットや機械、無人スーパーのレジや音声自動応答システムなどは、人間に代わって労働を提供することはできても消費者にはなりえない。大量消費市場が消費者を失えば経済はどうなるのか。

技術革新の勢いはこれからも衰えることはないだろうし、企業はグローバル化や自由経済市場での競争のために、さらなる機械化を進め、雇用の削減は続くであろう。しかし現代の経済構造は高失業率では成り立たないということを企業経営者は忘れてはならないだろう。