今年1月、オバマ大統領は任期中最後となる一般教書演説を行い、アメリカは世界最強の国であり、その経済は衰退していないことを強調した。
中国経済が停滞し、欧州や中東が危機にある中、昨年12月、アメリカは9年半ぶりに利上げを決定した。利上げによって世界から資金が集まり、ドルが強くなるという見方もできるが、アメリカ社会の苦しい状況を考えると簡単にそうなるとは思えない。
アメリカの格差社会は今に始まったことではない。世帯別の平均所得において統計データの推移を見ると、好景気の恩恵を受けているのは上位の人々だけで、所得増加分はほとんど上位数パーセントの高所得者の手に渡っている。大部分の国民は豊かさとはほど遠く、賃金が上がらない状態がもう何十年間も続いているのである。
20年以上デフレ不況の続く日本と違い、アメリカはインフレのため生活費は上昇傾向にあり、賃金が上がらなければ生活が苦しくなるのも当然だ。過去10年間に、アメリカ政府による食料費の補助であるフードスタンプの受給者は2倍に増えて5千万人、労働者の3分の1が補助を受けている。富裕層による富裕層のための経済システムにより、格差がさらに広がりつつあるのだ。
またアメリカは海軍、空軍ともに予算を削減しており、イギリス、ドイツ、ベルギーなど欧州の米軍基地も経費削減として大幅に整理統合する方向で動いている。ウクライナ問題や「イスラム国」が勢力を拡大する中での兵力削減は、アメリカの衰退を物語っている。それでも多くのアメリカ人、おそらくは日本人も、その現実を認識できていないのは、こうした現状をメディアが報じないためであろう。
オバマ大統領はまた演説において、TPPによりアジアにおけるアメリカの地位を増大させ、アジアでルールを作るのはアメリカであって中国ではないとも述べた。日本でも中国経済の減速が大きく報道されているが、中国のGDP伸び率は過去25年間で最低とはいえ、2015年の成長率は6.9%であった。1月に習近平国家主席は訪れたカイロで、中東での産業やエネルギーの開発を目的に総額350億ドル(約4兆円)規模の融資を実施する計画も発表し、中国とヨーロッパを結ぶシルクロード経済圏「一帯一路」構想の実現に向けた関与を強く打ち出している。
安倍総理も1月に国会で施政方針演説を行い、アベノミクスが大きな果実を生み出したと豪語した。雇用は百十万人以上増え、正社員も増加に転じたと述べたが、日本の実態は、賃金労働者の4割はすでにパートや派遣などの非正規雇用であり、アメリカ同様ワーキングプアが問題になる格差社会が固定しつつある。日本の基軸は日米同盟にあると言う安倍総理の言葉通り、日本もまさに追随するアメリカ社会のように変わりつつあるというのは、国民にとっては悲劇としか言いようがない。