No. 1140 日銀マイナス金利導入

1月29日、日銀は金融政策決定会合を開き、追加緩和策として、民間銀行が日銀に預けている一部の資金に0.1%の手数料を課す「マイナス金利」導入を発表した。必要であればさらなるマイナス金利を進めるという。

マイナス金利とは、民間銀行が日銀に預ける「当座預金」において、例えばこれまでは0.1%の利息を日銀が支払っていたのを、逆に銀行側が0.1%の手数料を日銀へ支払う仕組みである。日銀は、金融緩和と低金利政策で企業が資金を設備投資や賃上げに回すよう促してきたが、民間銀行は日銀の当座預金に資金を積み上げ、当座預金の残高は去年12月から今年1月にかけて平均で252兆円、うち242兆円に0.1%の金利がついていた。

ヨーロッパでマイナス金利がとられていることは昨年からこのコラムでも取り上げてきたが、日銀の黒田総裁は、導入の考えはない、と述べていた。それが一転して、マイナス金利導入で民間銀行が投資や融資を増やせば実体経済が上がり、それによって原油安や新興国経済の失速、米国の利上げで新興国からの資金流出が懸念されるといった投資家の不安解消を狙う、と言うのである。

マイナス金利の発表直後、国債市場は長期金利の指標である新発10年の利回りが一時0.09%をつけ、過去最低を更新した。しかしそれでも民間銀行は保有する国債を日銀へ売却することはないだろう。なぜなら国債は政府が相手で、信用リスクがないからである。そしてさらにマイナス金利により、民間銀行が企業への融資よりも金融資産への投資を増やせば、日本の経済や金融はますます不安定になるだろう。

もともと日銀が低金利政策をとり始めたのは経済成長を促すためだったが、成長どころか、逆にマイナス成長が続いてきた。普通であれば効果が出なければ他の政策をとるべきだが、日銀は低金利を継続し、そしてさらにそれを『マイナス金利』にしたのである。

昨年11月、BNPパリバ証券のアナリストである徳勝礼子氏は「マイナス金利:ハイパーインフレよりも怖い日本経済の末路」(東洋経済新報社)と題する本を出版した。その中で、債券市場を専門としている著者は、2013年4月に日銀が「異次元の金融緩和」として円の供給を加速的に増やしたことで、債券市場ではすでにマイナス金利が発生していると記している。なぜなら円が弱いため、ドルを借りたい人の方が多く、そのため円を借りてくれる人に対して貸す側が大幅値引きをしているからだという。しかし国債のような債券はプロの投資家同士で取り引きがなされるために、こうした実態は通常目には見えてこなかったのである。

日本の経済がデフレから脱却できないのは、高齢化や経済の成熟など構造的な社会変化も大きな要因である。それにもかかわらず日銀や政府は「成長目標」を掲げ、経済を歪める政策を取り続けている。マイナス金利政策により、早くも銀行の預金口座にかかる「口座維持手数料」の導入がささやかれている。国営ではない日本銀行のわずか9人の政策委員が議論し、4人が反対したにもかかわらず決定されたマイナス金利が日本国民へもたらす影響はあまりにも大きい。