No. 1141 ベーシック・インカム

昨年、フィンランドが福祉政策として、ベーシック・インカム(最低限所得保障制度)の導入を検討していると報じられた。

北欧のフィンランドでは、既に低所得者への手厚い補助交付金制度がある。例えば、大学生なら返済不要の教育奨励金が支給され、失業保険も報酬に比例した給付額が正社員、パートタイムを問わず全ての働く人たちに適用される。制度改革として、こうした既存の手当に替わり、国民全てにベーシック・インカムとして800ユーロ(約11万円)を支給することを検討しているという。

2月になって、今度はスイスでベーシック・インカムの導入を国民投票するというニュースがあった。スイスでは一昨年からベーシックイン・カムの導入を求める活動が行われてきたが、活動が実り国民投票にかけられることになったのである。欧州の中では比較的豊かなスイスで、なぜベーシック・インカムが求められるのかといえば、貧困の撲滅よりむしろ働き方や生き方をより充実させるためだという。

デフレに悩む日本もベーシック・インカムを検討する価値はあると思う。なぜなら日本の景気停滞は消費が足りないためであり、その原因は所得の分配が不十分なことにあるからだ。消費税が上がり、富裕層の所得税が下がり、一方で一般労働者の賃金が下がっている日本では、富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなっていく。税率を昭和の時代の累進課税方式に戻し、消費税をやめるだけでも所得の再配分は是正されるが、さらにベーシック・インカムを導入すれば、今までお金がなくて買えなかった層の人々が物を買うことができるようになり、景気は上向きになっていくだろう。

アベノミクスの成長戦略という「三本の矢」は、経済を活性化することなく失敗に終わった。日銀の黒田総裁による大規模な量的緩和も景気を良くすることはできなかった。マイナス金利政策も、発表後数日間だけ株価は上がったが結局再び暴落し、円高に向かいつつある。世界的な株安というが、日本がその震源地かもしれない。ここまで政府と日銀の政策が失敗続きなのだから、そろそろ日本も違った政策を検討するべきだ。

私個人の考えでは、国民に対して政府が無条件で給付金などを支給するよりも、失業者を国家が雇用し、基本的な社会基盤設備から環境関係といった地域を改善するさまざまなプロジェクトに参加させるほうが好ましいと考えている。ベーシック・インカムの導入でブラック企業などで無理に働く必要がなくなる一方で、働かない人が増えるという問題も考えられるからだ。より良い暮らしを求め、さらにやりたい仕事に挑戦する人もいれば、「寄生虫化」する人が出ないとは限らず、それは長期的に社会の衰退につながりかねない。

政府が国民にお金を配るという考えは、経済学者のミルトン・フリードマンが「ヘリコプターマネー」と呼んで提案したことがある。ゼロ金利、量的緩和、マイナス金利と効果の出ない政策を続けることをやめ、ベーシック・インカムやヘリコプターマネーを、国債ではなく政府が増刷した紙幣を財源として行うことを時限的に試す価値は十分にある。