No. 1143 ロボットが及ぼす影響

毎年スイスで開かれる世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議は、世界の知識人や政治家、多国籍企業経営者やジャーナリストなどが招待され、世界が直面する重大な問題について議論する場となっている。

ダボス会議が1月に発表した今年の分析報告書によると、ロボットや人工知能の台頭が労働市場に大きな影響を及ぼすことが指摘された。「ザ・フューチャー・オブ・ジョブス(職の未来)」というその調査報告によれば、2020年までに日本を含む世界の15の国や地域において710万人が職を失うと予測している。

政府発表の日本の完全失業率は3.3%、完全失業者数は204万人である。失業率は低いとはいえ、就業者のうち正社員は3316万人、パートや派遣社員などの非正社員は2038万人で、働く人の約4割が不安定で賃金の低い非正規雇用である。この現実が日本の個人消費の低迷をもたらしている。消費税増税に加えて労働者派遣法の改悪をはじめとする規制緩和がこのデフレの原因なのである。

企業が利益を増やすには人件費の節約が一番簡単だ。数年前から日本経団連は高齢化社会を理由に海外からの移民受け入れを推進しようとしているが、日本より賃金水準の低い国から多数の労働者が来れば日本人の賃金を押し下げることになる。これにロボットという競合が出現すれば、さらに職の奪い合いになるだろう。

ボストン・コンサルティング・グループは昨年、産業用ロボット導入の急拡大により、製造業で大幅な人件費削減が可能となり、10年間で人件費の25%をロボットが担うようになると予測している。もしそうなれば、移民受け入れや安価な労働力を求めて海外に工場移転をする必要もなくなるかもしれないが、問題はロボットは労働力を提供しても消費者にはなりえない。短期的に企業が製品やサービスを安価に提供できるようになっても、国内消費で経済が回っている日本でいずれ企業収益にも影響が出るだろう。

四半期ごとの収益を指標とする現代の企業経営者は、10年先や国家経済に及ぼす影響を考えて経営はしていない。国全体を考え、政府の計画や指令の下に商品の生産や財の分配を行う社会主義経済と違い、自由競争により利益を追求するのが資本主義経済の考え方だからだ。だからこそ政府が率先して国民の幸福と健康を最大にすることを国家の目標とすべきなのだが、残念ながら安倍政権は企業の利益を増やして経済の規模を大きくすることを目標に掲げている。

またダボス会議では、人工知能を備えたロボットが戦争で利用され、人間を殺すという未来を回避するために世界は今すぐ行動する必要があるという警告が、科学者や軍事専門家から出された。今既に兵器として使われている無人機は人間が操作するが、後方で操作する人がいない人工知能兵器も数年以内に実現が可能だという。たとえ政府が人工知能の軍事利用を禁じても、民間企業での研究開発は進むだろう。雇用だけでなく、ロボットや人工知能は、人類の未来に大きな問題を呈している。