ビジネスにおいて情報が全てコンピューターに格納され、利用される時代になり、氏名や住所、クレジットカード情報などが不正アクセスの被害に遭い流出するという事件が連日のように起きている。
被害にあった団体や企業は、より一層のセキュリティー強化や監視を図っていくというが、不正アクセスをしているのが国家なら、国民はどうすればよいだろうか。
米国CIAなどの盗聴活動について暴露し、ロシアに亡命したエドワード・スノーデン氏が、昨年英国BBC放送の番組で、英国政府の政府通信本部(GCHQ)は個人のスマートフォンを自由に操作できる上に、ネットワーク・プロバイダーをハッキングしていることを指摘した。スノーデン氏によれば、政府のスパイは合法的に国民の電話を盗聴し、スマートフォンの機能を利用して部屋の中で起きていることを聞いたり、メッセージや写真を見たりすることもできるという。そして普通の衛星利用測位システム(GPS)よりずっと精巧なレベルで、その人がいる位置情報を特定でき、またこれらはスマートフォンがオフの状態で可能だという。
スマートフォンといえば、米国政府が捜査協力を目的にセキュリティー機能を迂回するシステム、すなわちバックドアを作るようにメーカーへ要請したことが話題になった。メーカーの最高経営責任者は、これに応じれば実質的に全てのユーザーのスマートフォンからデータを入手する権限を政府に与えることになるとして、要請を拒否している。
こうした流れから、スマートフォン・メーカーに対して、法執行機関からの要請に応じてセキュリティー機能を解除できる機能を義務化する法案がニューヨーク州などで提出されたという。犯罪捜査の邪魔になる機能によって公共の安全が脅かされるのを防ぐというのがこの法案の目的だ。しかしバックドアがあればスノーデン氏が指摘したようにますます政府の個人情報収集が可能になり、(政府以外の)悪意ある者に対してもデータにアクセスする道を与えてしまう。そのため是認できないというのがメーカー側の主張である。
スマートフォンは位置情報、通話・通信履歴など個人情報の宝庫であり、だからこそ政府はそれらの情報へアクセスするためにメーカーを抱き込もうとしている。ニューヨーク州議会では、暗号化された情報へのアクセスが不可能だったり暗号化通信を解読できないスマートフォンを販売・リースした者には、端末1台につき約30万円の罰金を科すという 法案が提出されている。テロの脅威という名の下で政府はセキュリティーを強め国民の自由を奪ってきたが、バックドアができれば国民はセキュリティーさえも奪われかねない。
法律は守っているしテロリストではないから盗聴されても関係ない、という人でも関わりのない話ではない。事実米国では、「愛国者法」が施行されてから政府に対して平和的なデモを行う活動家たちが逮捕されるようになっており、秘密保護法の導入された日本でも、市民の監視やメディアの規制へと今後進みかねないからだ。スマートフォン規制をめぐる今後の展開は無視することができない。