No. 1145 金融危機再び

スイスのバーゼルに本部のある国際決済銀行(BIS)は、世界60カ国・地域の中央銀行が加盟し、日本は1994年から日銀が理事会メンバーとなっている。

BISは加盟する中央銀行が出資し、お互いに決済業務や為替の売買、預金の受け入れを行う。加盟国で中央銀行総裁会議を開いてマクロ経済や国際金融政策について意見を交換するなど、「中央銀行の中央銀行」と呼ばれることもある。そのBISが3月6日、『不安な静けさは、大荒れに移行する』と題した四半期報告書を発表した。スイスは銀行の匿名性や守秘性の高さでも知られる。その地で世界の中央銀行を取り仕切るエコノミストたちが、金融システムにおける大惨事を警告するかのようなリポートを出したのである。

また同じ報告書には「マイナス金利政策はどのように実施されたのか?」と題する記事も書かれ、スウェーデンなどが2014年半ばから始め、日銀も今年から採択したマイナス金利政策を分析し、都市銀行の業績が悪化すれば貸し付け能力が落ちること、また保険会社や年金基金ファンドが衝撃を受けるなど、マイナス金利政策の問題点を指摘した。

BISがその報告書で各国の中央銀行がとる政策に異論を呈するのは初めてではない。2003年には金融市場における不均衡の拡大を警告しており、今回もマイナス金利を採択したことで中央銀行はもはや効果的な打ち手を出しつくしたのではないか、という懐疑感から金融市場が不安定化していくだろうと述べている。

日銀や欧米の中央銀行は長い間ゼロ金利政策をとってきた。目的は経済を活性化させるため人々に貯蓄ではなく消費を強いるためだったが、マイナス金利はそれを推し進めるものだ。つまり中央銀行は、世界経済停滞の理由は、人々がお金を使わず貯蓄に回すためだと考えている。しかし事実はそうではないため、ゼロ金利を何年続けても景気は回復しないのである。

国内消費が低迷する理由は貯蓄のためではない。かつて高かった日本の家計貯蓄率は、現在はほぼゼロ%になっている。貯蓄率の低下は、消費の伸びが可処分所得の伸びを上回っているため、つまり個人消費低迷の原因は、所得の伸び悩みなのである。

『不安な静けさは、大荒れに移行する』と題した報告書でBISは、世界において実体経済に対して前例のないほど膨らんだ債務レベルは、2008年の金融危機よりもひどくなっており、いかなる刺激策をとっても経済はもはや上向かないだろうとしている。

日本は最も積極的に量的緩和を行ったが、それでもほとんど経済は横ばいかマイナスを続けた。マイナス金利を発表後も、まだ株価は戻っていない。欧米各国も例外ではなく、今年末にはイタリアがキプロスのような危機に見舞われるという予測もあるし、ドイツ銀行は昨年第3四半期に70億ドルという純損失を発表している。

世界の中央銀行の金融政策は破綻しており、この不安な静けさはいずれ大荒れに移行するだろうという。つまり中央銀行の中央銀行が、2008年のような金融危機が再び来ると見ているということなのだ。