白熱するアメリカの大統領予備選挙で、不動産王ドナルド・トランプ氏の動向に注目が集まっている。それとともにトランプ氏の躍進により共和党が分断寸前という話も出ている。
トランプ氏が立候補宣言をした時、メディアは泡沫候補扱いだったが、その人気は根強く、大統領候補指名に目されるようになった。多くの米国民がこれまでの政治への不信感からかトランプ氏を支持しているようだ。「チェンジ」を掲げ、変化を期待させた民主党オバマ大統領は、何も変えなかったどころかテロとの戦いを継続している。
二大政党の共和党と民主党は、違うのは看板だけで中身は同じなのだ。両党の政治家はスポンサーである企業経営者やウォール街のための政策を実行し、それにより自分たちが利益を受けるという構図で、長い年月にわたり国家を運営してきた。しかしトランプ氏は自身が豊富な資金力を持ち、企業やウォール街の顔色を見ながら政治をする必要はない。そのため大企業を優遇してきたこれまでの米国政府とは異なる政策を打ち出している。
大企業優遇である環太平洋連携協定(TPP)には署名しない、米国内の産業を復活させるために海外へ生産拠点を移せば高関税をかける、税制においては年収2万5千ドル未満の単身世帯と年収5万ドル未満の夫婦世帯は所得税を免除する、高齢者向け公的医療保険と低所得者向け公的医療保険や退職者向けの社会保障は削減しない、などである。
不法移民の流入を防ぐためメキシコとの国境に高い壁を築くとか、米国に居住する不法滞在者を強制送還する、イスラム教徒に対する米入国一時禁止など、これまで移民を利用することで雇用と賃金の減少をもたらしたことへの過激な政策も打ち出しているが、トランプ氏が大統領になれば予想もつかない事態になることは間違いない。そのため、共和党の中で特に多額の政治献金をするウォール街の富裕層は、ヒラリー・クリントンの支持に回り始めていると言われている。
クリントンはウォール街にとってよい大統領となるだろう。グローバル化を推進させ、世界大恐慌の反省からつくられた銀行と証券業務を分離させるグラス・スティーガル法を1999年に撤廃したのは夫ビル・クリントンだった。それ以後、投資銀行やヘッジファンドの独断場となり、デリバティブ商品などでウォール街がカジノとなった。返済能力のない労働者にもローンを組ませて住宅バブルを起こし、2008年の金融危機へとつながった。
インターネット上では、トランプ氏を大統領にさせないために暗殺説さえ流れるほど、同氏が大統領になると不都合な人がいることは確かだろう。実際、過去にはジョン・F・ケネディ大統領の弟ロバート・ケネディが、大統領選のキャンペーン期間中に暗殺されている。
しかしトランプ氏が大統領になっても、何も変わらない可能性も高い。彼は不動産売買で富をなした人物だ。マフィアやウォール街に精通し、バブルがどうやってつくられるかも十分理解している。そしてどうすればその財産を失うかも知っているはずだ。そのトランプ氏が財産を守るための取引をしないことは、むしろ考えにくいかもしれない。