去る4月、オーストリアの銀行が破綻し、救済のために預金者の預金が使われる という「ベイルイン」が行われた。 1990年代、相次いで日本で銀行が破綻した時には政府が多額の公的資金、つまり 税金を注入して救済をする「ベイルアウト」という方法が取られた。2008年に米 国で起きたリーマンショックと呼ばれた金融危機でも同じように公的資金による 救済方法がとられている。これに対してベイルインは、銀行の債権者と株主に損 失を負担させることで、税金での救済を回避する、言い換えれば銀行が資産とみ なしている預金者の預金を使って、銀行自身を救済する方法なのである。 このベイルインの導入が世界で検討されるようになり、数年前から実際に銀行救 済が預金を使って行われるようになってきた。特にヨーロッパでは、ベイルイン を導入していない国に対して欧州連合(EU)が警告を行い、2015年末にはEU 全加盟国が導入し、今年からベイルイン制度が発動したところであった。 今年4月10日、破綻したオーストリアのヒポ・アルペ・アドリア銀行の不良債権 の受け皿として設立されたヘタ・アセット・レゾリューションについて、ヘタの 優先債務を54%減免し、ヘタの劣後債務や株式についても100%の損失負担が投 資家に求められた。EU諸国で初めてこのベイルインが行われたことで、今後他 の国でも同じ手法がとられることは間違いないだろう。破綻した銀行に預金して いる預金者は、その預金を失うというオーストリアのケースを目にした預金者 が、銀行から預金を引き出す動きが出始めることもありうる。そうなれば、ヨー ロッパ全体の金融崩壊へとつながる可能性もある。 オーストリアの場合、ヘタ・アセット・レゾリューションの株主が優先債権者で あり、預金者は劣後債権者である。株主は1ドル当たり46セントを受け取るが、 預金者は何も受け取ることはできない。預金者のお金はもはや預金者のものでは なくなる。ベイルインとは「預金封鎖」であり、デマでも妄想でもなく、現実に EUでそれが行われたのである。米国でも10年に成立したドッド・フランク法に よって金融機関が破綻した場合、預金保険制度等を運営する連邦預金保険公社が 主導して破綻した金融機関の持ち株会社の債務のエクイティ転換など、ベイルイ ンと同様の制度が既に出来上がっている。 世界の株価暴落をあたかも予期していたかのようにEUはベイルイン導入を急が せた。1929年、米国では大恐慌の前に銀行が封鎖され、銀行の前には預金引き出 しのために長蛇の列ができたが、預金者はもはや自分の預金をおろすことはでき なかった。 銀行が破綻すると、日本では一時国有化するなどベイルアウトによって対処され てきたが、日本でも預金保険法が改正され、債務超過に陥った銀行に対して、総 理大臣がベイルインを発動する権限を持つようになっている。つまり日本も、預 金の元本削減や株式転換がなされるベイルインの準備は整っているということで ある。