No. 1153 安全対策ないネット取引

去る5月、日本国内17都府県でコンビニの現金自動出入機から、現金約14億円が不正に引き出されるという事件が起きた。

使われた偽造クレジットカードは南アフリカの銀行のもので、わずか3時間に計1万4千回も引き出しが行われ、不正引き出しには100人以上が関与しているという報道もある。これだけ大掛かりであれば、背後には大きな組織があることは間違いないだろう。

2月には、米ニューヨーク連邦準備銀行にあるバングラデシュ中央銀行の口座から、ハッカーによって8100万ドル(約92億円)が不正にフィリピンの口座へ移動されるという事件も起きた。しかしニューヨーク連銀はハッカーがシステムに侵入したことを否定しているため、送金で使われる国際銀行間通信協会が攻撃を受けたのではないかと見られている。使われたのが南アフリカのカードだった日本の事件と同じく、現代の銀行強盗は姿を見せることなく、国境をまたいでいとも簡単に行われるのだ。

インターネットバンキングにおいて、実在の銀行やクレジットカード会社からの偽メールによるフィッシング詐欺や不正送金ウイルスなど、危険性は以前から喚起されていた。自分の口座からいつの間にかお金がなくなるなどだれが想像しただろう。しかしその手口は巧妙化し、被害総額は毎年増加の一途をたどっており、ニューヨーク連邦準備銀行に限らず、世界中の金融機関に対して攻撃が加えられている。問題はこうしたインターネットを介した金融取引を安全に行うための完璧な対策がないことだ。利便性の追求からすでに社会インフラとして確立しているため、もはや使わないという選択肢はないほど普及しているにもかかわらず、である。

よく使われるモノがインターネットに接続されることで、スマートフォンやモバイルアプリから制御できるようになることは確かに便利そうである。しかしその「利便性」とともに、さまざまな脆弱性がもたらされている。例えば、ドアの鍵、家の警報機、車庫の開閉コントローラなどをスマートフォンから操作できるようになるということは、同じようにハッカーも、脆弱性を利用して操作ができるということなのだ。

世の中に存在するモノに通信機能を持たせ、インターネット接続したり相互に通信したりすることで、快適で便利な暮らしがもたらされるはずだった。しかし、スマートフォンもスマートホームも、趣味として使うならまだしもセキュリティーの面を考えるとセンシティブなタスクについては慎重にしていかなければいけない。

コンピューターの性能は18カ月で2倍になるという、いわゆるムーアの法則の通り、パソコンからスマートフォンやタブレット、そしてモノのインターネットと進歩は続いている。しかしその便利さは本当に必要なのか。経済活動を拡大するためだけに研究を行い、あらゆるものをデジタル化して接続し、さらには生き物のように考えるコンピューターを作ろうとしているが、まずは今使っているシステムの保護を十分にすることだ。新たな創造よりも既存のものを安全に使いこなすこと、そちらのほうに警鐘を鳴らしたい。