No. 1154 米中戦争で日本は戦場となる

世界で最も大きな二つの国が戦争を始めたらどうなるだろう。二つの大国とはアメリカと中国で、すでに2国間では貿易戦争が始まっている。

以前から両国間の貿易には緊張がみられたが、最近はそれがさらに高まっている。ドルに対する人民元の相場が下落しているのに対し、米企業からは中国政府が為替操作を行って中国製品の競争力を強めているという批判が出ている。オバマ政権は、中国が不当に安く輸出していると世界貿易機関(WTO)に提訴した。5月には中国から輸入する一部の鉄鋼に対して反ダンピング関税を含め522%という高額の関税を課す決定を下した。自動車やその他工業製品への関税も課し始めたため、いずれ行き場を失った在庫は中国内にあふれ、価格は暴落するであろう。

中国が長年にわたりダンピングをしてきたことは事実であり、アメリカがこうした措置を取ることは仕方がないという見方もある。しかし、これに対して中国が報復を開始すれば困るのはアメリカのほうだ。米財務省が発表している米国債の国別保有残高によると、国別の米国債保有高のトップは中国である。例え痛手を被ったとしても、アメリカに報復を加える切り札を中国は持っている。昨年から中国は米国債の売却を行ってきており、その理由は自国の株式の買い支えやアジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金だと言っているが、もし貿易戦争が激化すれば、さらなる米国債売却を行い、それはドル基軸通貨体制の崩壊につながるだろ
う。  

貿易だけではない。南シナ海では、中国、ベトナム、台湾が領有権を主張する島に中国が2013年ごろから造成を始めた人工島を巡ってアメリカは軍艦を派遣し、ミサイルも配備するという。中国が自国の領海だとする主張を否定し、アメリカはその海域に強硬に乗り込んで行ったのだ。このままエスカレートすれば、国内総生産(GDP)で世界1位と2位の国、そして、ともに核を保有する国同士の戦争も現実味を帯びてくる。  

中国は兵力も増強しており、開発中とされる「ハイパーソニック・グライド・ビークル」という最新兵器は、短時間で精密攻撃が可能で、これを使用されると防御する手だてがないといわれている。中国の軍事力の実態はあまり知られていないが、兵器開発は驚異的に進歩しているとみてよいだろう。

6月に入ってから、尖閣諸島周辺に中国艦船が入るという事態が起き、日米政府はこれを日米同盟へのけん制と受け止めて警戒監視活動に当たっているというが、中国が日本をけん制するのも当然だろう。今年2月、共同通信は本土復帰前の沖縄米軍基地に配備されていた核兵器の写真と関連資料を公開した。アメリカの公文書館から提供されたもので、明らかに沖縄はアメリカの「核兵器庫」であった。

現在の日米の従属関係をみれば、日本の米軍基地に核兵器を配備しているかどうかを日本政府が知らないことは大いにありうるし、今の日米関係なら、核兵器が日本にないことを想定するほうが難しい。中国はそれをよくわかっている。従って米中戦争が始まれば、アメリカ本土よりもアメリカの軍事的属国である日本が最初の攻撃対象となるだろう。米中戦争は、日本が戦場になるということなのである。