No. 1155 世論動かす検索結果

2013年、アメリカ国家安全保障局(NSA)が世界中のインターネットや電子メールを傍受していると告発したのは、元NSA契約職員のエドワード・スノーデン氏だった。

グーグルやヤフーなどの米企業もNSAに協力していると言われたが、日本のメディアは詳細を報じることはなかった。その後内部告発情報を公開するウィキリークスが、日本の政府や大手商社もNSAに盗聴されていたと暴露したが、それでも日本政府は追及もアメリカへ抗議することもなくうやむやに終わった。

6月に東京で開かれた監視のシンポジウムにスノーデン氏がインターネット回線を通じて参加し、日本人がアメリカの潜在的な監視対象であることを再度警告した。また特定秘密保護法制定により情報公開が妨げられ、報道の自由が危うくなるとの警鐘も鳴らした。このままいけば親米安倍政権の報道はますます偏向になり、テレビや新聞を使って世論操作が行われるようになるであろう。

世論操作といえば大統領選挙を控えたアメリカで、インターネット検索エンジン「グーグル」がヒラリー・クリントン氏に有利になるように操作をしているという疑惑が出ている。行動心理学博士のエプスタイン氏の研究によれば、検索ランキングで好意的な内容が上位にでる候補者は、そうでない候補者よりも「良い」と人々が信じ、浮動票を獲得しやすくなるという。実際に2カ国でインターネットの検索結果を操作する実験を行ったところ、人々はランキング上位にくる人物を「良い」と思う方へ動いたというのである。検索アルゴリズムの調整次第で、人々の思考は誰に投票するかを含めて操作が可能なのだ。

これに対してグーグルは、検索アルゴリズムは“関連のある答え”が提示される仕組みになっており、特定の見解に傾くよう操作したとすれば検索結果と会社に対する信頼が損なわれる、と操作を否定しているという。しかしそれでも疑いが晴れないのは、グーグルとクリントン候補の民主党との深いつながりのためであろう。

グーグルの創業者シュミット氏は、クリントン候補の選挙活動で技術を支援する新会社をつくっており、またグーグルの元幹部がクリントン候補の技術統括役員を務めている。別の元幹部はホワイトハウスでオバマ政権の技術スタッフになっており、2012年の大統領選ではグーグルはオバマ陣営に80万ドル以上の献金を行った。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、オバマ大統領になってからグーグルの社員がホワイトハウスに訪れた回数は230回、平均で週に1回にもなるという。

大手メディアの報道が世論の形成に大きく影響するように、選挙におけるグーグルの価値をクリントン候補は十分に理解しているはずである。グーグルが検索のオートコンプリート機能をいじっていないとしても、そしてグーグルの言うようにアルゴリズムの仕組みだとしても、検索結果が世論を大きく動かすこと力を持っているということは、選挙制度の正当性を揺るがす大きな脅威と言えるであ
ろう。