7月10日、参議院選挙が終わり、自民党は全国で圧勝した。東日本大震災で被災した福島、宮城、岩手では敗れたが、民主党時代に復興大臣を務めた平野氏が自民党へ入党したことで単独過半数も維持する結果となった。世論の支持を得たとしてアベノミクスを更に推し進めていくという。
投票率が54.7%と過去4番目の低さであったことも連立与党に有利であったし、なによりも自民党の戦略が奏功したといえる。アベノミクスによる経済政策は、法人税減税や海外へ融資や支援を行い日本企業がその案件を受注することで利益を還元させるなど努めてきたが、日本経済は停滞から抜けられていない。だから争点になるはずだった消費税増税は既に2019年10月に延期すると発表していた。それでも「経済の自民党」をアピールし続け、改憲については口を閉ざしていた。
選挙前にもう一つ自民党が行った戦略は、年金運用の損失を公表しなかったことだ。4月に政府は年金資金運用基金(GPIF)の年次結果の公表を7月初めから7月29日に遅らせると発表した。この延期は選挙とは全く関係なく、報告書の作成のために10年間の結果を検討する必要があるため余分な時間が必要だからという説明だった。
アベノミクスでは株価を経済活性化の指標としている。だから政府は株価を上げるために14年秋、年金資金の運用割合を変えた。保守的な国債の割合を減らして、年金資金を株式やその他のよりリスクの高い試算にシフトしたのである。2011年第3四半期と比べると国債での運用は67.4%から37.8%に減少し、その他の全ての資産が増加した。中でも外国と国内株式への投資は2倍以上に増えたのである。つまりGPIFは保有していた国債を日銀へ売却し、代わりに株式を買って株価を押し上げ、アベノミクスの株高を下支えしたのである。
しかし損失を隠すことはできなかった。関係者によれば、2016年3月31日に終了した2015年度のGPIFの損失は5兆円から5兆5千億円に上るという。言うまでもなく2015年4月以降、欧州や日本の株式は大きく下落している。株価の暴落は年金の消失でもあった。アベノミクスの政策がもたらした実態が、選挙では大きな投票数を占める年配の有権者にとって大問題になることを、自民党は十分に理解していたのである。
損失はこれで終わりではない。モルガンスタンレーMUFG証券の試算によれば、円高、株安、低金利を背景に2016年4~6月期も約4兆4千億円を失ったもようだという。今更だが、アベノミクスで株価が上がったのは年金資金が株式市場に投じられたからだ。高値で売り抜けた企業や富裕層はそれでもうかったが、ほとんどの国民には株価上昇の恩恵はなかった。
国民の年金を使って短期的な好景気をつくったのがアベノミクスだった。今回の選挙で、自民党を支持した 国民だけでなく、選挙に行かなかった有権者も結果的にこのアベノミクスのさらなる加速を認めたのである。