No. 1158 組織票と無党派層の選挙

先進国の中でも特に投票率が低い日本だが、7月の参議院選挙でも棄権を選んだ有権者が多かった。新たに18、19歳が有権者となったが、19歳の投票率は40%に満たなかったという。

世界では義務投票制を取る国もあり、オーストラリアでは正当な理由なく投票しなかった場合は罰金が課せられ、投票率は95%程度となっている。日本における参政権は国民が政治に参与する「権利」であると日本国憲法に保障されているため義務化はできないが、政府が本当に国民の政治への参加意識を向上したいのであれば、もっと政治や選挙への関心を持たせるようにするべきである。

憲法といえば、今回の参議院選挙で自民党は憲法改正を争点から外した。野党側は「改憲勢力の3分の2阻止」を必死に訴えたが、マスメディアの報道もなく、多くの有権者にその重要性は伝わらなかった。そして参院選が終わったとたん、改憲や国民投票といった話が浮上したのだ。参院選で「改憲」が争点となっていれば、そして自民党の憲法改正草案をテレビや新聞が報じていれば、選挙の結果も変わっていたかもしれないが、後の祭りである。

2013年の参議院選挙でも自民党は「特定秘密保護法」や「安保関連法」を争点から外した。そして国の安全保障に関わる重大な秘密を漏らした公務員や民間人を処罰するための「特定秘密保護法」は熟議がなされることもなく2013年12月に成立、また「国民の理解が進んでいない」と安倍首相自らが認めた「安保関連法」は、国会前はじめ全国でデモが行われ、多くの憲法学者が憲法違反だと指摘する中で2015年9月に強行採決された。

今年7月の選挙後、政府はすぐに大型の経済対策を策定する方針を表明した。また成長とインフレのための金融政策も継続するだろう。3年半行われたアベノミクスが一部の富裕層だけを富ませ、一般国民の生活はさらに苦しくなったとしても、自民党に投票した人と棄権した人は共に望むものを手に入れたのだ。

例外は沖縄で、現職大臣が敗れ、自民党は沖縄県で衆参ともに選挙区選出の議員がいなくなった。沖縄県民が政府に対してこれ以上基地は造らせないと言ったのである。その沖縄では今、高江のヘリパッド工事の中止を求める反対運動が行われている。政府は沖縄本島北部の森に囲まれたこの土地に米軍のオスプレイが使うヘリコプター着陸帯を造ろうとしているのだ。

軍事費を削減したい米国のために日本が負担して辺野古新基地やヘリパッドを造る。そして次は憲法を改正して米軍と共に自衛隊が米国の戦争に参加できる国にする。政治に無関心で投票に行かない多くの日本人は、リゾート地としての沖縄は見えても米軍基地に苦しむ沖縄の問題には関心がない。だから日本が属国であるということにも気が付かないのかもしれない。

日本の選挙は少数の「組織票」と大多数の「無党派層」のせめぎあいとも言われる。安倍政権にとっては国民を政治不信に陥らせ、無関心な無党派層を増やすことが権力を維持し続ける早道なのだろう。