No. 1160 激しいトランプ氏たたき

11月のアメリカ大統領選挙を前に、共和党候補のトランプ氏たたきが激しくなっている。

7月には、イラクで戦死したイスラム教徒の米兵士の遺族をトランプ氏が侮辱したとしてオバマ大統領が非難し、また、ある共和党議員は民主党候補のヒラリー・クリントン氏への支持を表明するなど、大手メディアはいかにトランプ氏が大統領にふさわしくなくひどい人間であるかをアピールすることに必死である。オバマ政権やメディア、そして共和党でさえ、トランプ氏が大統領になるのを何としてでも阻止しなければいけないと思っているようだ。

現在のアメリカ支配者層がトランプ大統領を拒むのは「ファシスト」や「人種差別」が原因ではない。トランプ候補が公約に掲げる、経済的に困難な状況に直面するアメリカの労働者を救済する政策を受け入れることができないためだ。  

アメリカ全体の雇用者数は近年増加しているが、内訳を見ると中間所得層を支えてきた製造業の雇用は減少し、増えているのは飲食業など、製造業と比べ4割近く年収が低い低賃金労働である。トランプ氏はこれらブルーカラーの経済的な不安に応え、自らの経営者としての手腕をもとに「雇用創出大統領」になると訴えている。  

アメリカで雇用が減少したのは、技術革新よりも米歴代政権が推進した自由貿易協定(FTA)にある。それにより企業は生産拠点、つまり雇用をアメリカ国外へ移していった。トランプ氏はその逆、つまり通商政策として中国からの輸入品に45%の関税を主張し、大統領就任時には環太平洋連携協定(TPP)から脱退する意向も表明している。

TPPにより関税がなくなれば輸入が増え、アメリカの製造業はさらに衰退する。日本政府は輸入農産物が安くなり輸出企業の輸出が増えるとして既にTPPに署名しており、トランプ氏は安倍政権と経団連にとっても不都合な存在であろう。

TPPのようなグローバルな自由貿易政策を後押ししているのは多国籍企業である。彼らは低賃金国で生産を行い、市場のあるところなら世界のどこでもそれを売って利益を得る。しかしそれは国民にとって雇用の喪失を意味する。輸入品の価格低下は確かに米国民に恩恵を与えたが、同時に人件費が安く環境保護の規制のない中国のような国へ雇用は移っていき、貿易赤字は膨れ上がった。トランプ氏の「日本や中国から雇用を取り戻す」と言う言葉は米国の労働者の心に響いたのだ。

FTAは企業の利益を増やし投資家を潤わせるが、労働者は所得も雇用の安定も失う。トランプ氏は、アメリカの政策がいかに少数の利益に有利なルールに基づいているかを有権者に暴いた。民主党のオバマ大統領もクリントン元大統領やヒラリー・クリントン候補も、自由貿易の提唱者であり、一部のエリートの利益に貢献してきた。  

メディアは広告主である大企業のために格差拡大の原因が企業の貪欲にあることには触れない。トランプ氏の人種差別発言ばかりを取り上げるが、トランプ候補への有権者の支持をどこまで弱められるか、大統領選挙まで激しいせめぎあいが続くだろう。