No. 1162 最低賃金値上げが招くこと

アメリカのカリフォルニア州議会は今年3月、州の最低賃金を段階的に時給15ドル(約1500円)に引き上げることで合意した。

ロサンゼルス・タイムズによれば、カリフォルニア州のブラウン知事は最低賃金値上げに関して「経済的正義の問題で、理にかなっている。アメリカ全土に広がることを期待する」と述べたという。2017年に10ドル50セント、2018年に11ドル、以降は毎年1ドルずつ引き上げ、2022年には15ドルにするが、従業員が25人以下の中小企業は15ドルへの引き上げ期限が2023年までと1年間猶予される。

この決定は、未熟練労働者を雇用する企業により大きな影響を及ぼすだろうと言われ、カリフォルニアでは農産物の収穫や剪定など、農場で単純作業を行う労働者を多く雇っている分野がそれにあたる。人件費が高くなれば企業家にとって設備投資がより魅力的になり、5人の労働者を雇用する代わりにロボットを2台導入するという経営判断がなされ得るようになる。しわ寄せは最低賃金値上げによって恩恵を受けるはずの労働者にくるのだ。

フランスではブドウの収穫を手伝うロボットが開発されている。四輪駆動ロボット「Wall-Ye」は、1日に600本のブドウの木の剪定作業や摘芯などの作業をこなすという。またドイツで開発された「BoniRob」は、植物の識別、作物の測定や健康状態分析を行い、草むしり機能も搭載しているという。

ロボットに置き換えられるのは農場労働者だけではない。ファストフード店で働く労働者にとって代わる新技術も開発されており、アメリカのマクドナルドでは、5月に開催された株主総会で、昨年の労使交渉で最低賃金を10ドルまで引き上げたが、15ドルまで上げるというならば、ロボットや人工知能によるオートメーションを検討することを経営陣が示唆したという。

ハンバーガーチェーン店では店員が手作業で肉を焼くが、人件費が上がればロボットを導入したほうが安くつく。顧客が端末で注文してクレジットカード払いのみにすればレジ係も不要になる。現代の技術を考えればこれらは実現可能であり、レストランは今よりずっと少ない労働者しか必要がなくなる。つまり現状ではスキルのいらない仕事が機械やロボットに置き換わるかどうかではなく、その移行がどれくらい早く行われるかということなのだ。

最低賃金の底上げが経済的正義として広まれば技術開発や導入が進み、世界は大量の失業をいかに対処するかという問題に直面するだろう。最初に打撃を受けるのは労働者だが、いずれは資本家も含むあらゆる階層の人々に影響が及ぶ。なぜなら労働者が貧しくなれば消費が減少し、それとともに経済が縮小するからだ。

技術進歩は避けられないが解決策はある。国民誰もが健康的な生活ができるレベルの「最低所得」を政府が保障することだ。それ以上の所得が欲しい人はもっと働けばよい。ロボットと競うのではなく、人間が人間らしく生きることができるような政策を各国政府がとればよいのである。