No. 1163 アメリカのシンクタンク

アメリカの政治に関する報道を見ていると「シンクタンク」の名前がよく登場する。日本では、たとえば金融機関のシンクタンクなら経済レポートを公開するなど、企業が民間の立場からその業界に特化した政策提言を行う政策研究機関だが、アメリカの場合は状況が異なる。

特定の業界ではなく、国の政策立案そのものに対する報告書を出したり、国内外の要人による講演を開催して政治的な問題を提起し、国家の政策に影響を与えるのがアメリカのシンクタンクなのだ。2012年、石原都知事(当時)はワシントンのシンクタンク、ヘリテージ財団で講演を行った。そこで沖縄の尖閣諸島の一部を東京都が買い取る意向を発表したのだが、日本と中国が尖閣諸島問題で険悪になったのはこの後からだった。

ヘリテージ財団はレーガン大統領時代には弾道ミサイルに対する「戦略防衛構想」の立案において重要な役割を果たすなど、特に軍事戦略においてアメリカ政府に強い影響力を持つシンクタンクだとされる。しかしヘリテージに限らず、通常アメリカのシンクタンクの研究員は企業から支援を受け、政府に対してロビー活動を行うことがその目的なのだ。

ニューヨーク・タイムズ紙は8月、いくつかの例を挙げてシンクタンクがアメリカ政府にとらせようとしている政策について報じたが、こうしたシンクタンクの活動は一種の情報戦争だと言えよう。通常、情報戦争は敵国に対して偽情報やプロパガンダを流布して仕掛けるものだが、シンクタンクはそれを米国民に対して行っている。つまり敵国の残虐さをアピールし、国民に不安と恐怖を植え付けて危険を煽ることにより、国民がその国を嫌うよう、またはその国と戦争をするように仕向けるのだ。

米陸軍航空軍が設立したシンクタンク、ランド研究所は、ロシアが軍備を拡張し米国の脅威になっていることを喧伝している。なぜロシアが軍備を強化したかといえば、アメリカ率いるNATO軍がロシアの近くに軍を配備したからなのだ。しかしこの事実を伝えず、ロシアの脅威だけを強調し非難している。ロシアの恐怖を繰り返し植え付けられれば米国民はいずれロシアとの戦争を支持するようになっていくからだ。

2012年の石原氏の講演後、尖閣諸島をめぐり日中関係が険悪になり、安部政権は4年連続で防衛予算を大きく増やしてきた。防衛省は2017年分として過去最高の5兆円を超える予算を要求している。そのうち尖閣諸島周辺の警戒監視強化のためとして2017年以降にも支払われる経費も含めた契約ベースでは1,026億円が計上されている。また戦闘機F35A6機調達に1,084億円、ミサイル防衛のためのイージス護衛艦1隻調達に1,734億円、無人偵察機グローバルホークの構成品取得に146億円と、アメリカのシンクタンクでの講演を皮切りに、日本は高価なアメリカ製兵器を大量に取得する理由ができたのである。

こうしたシンクタンクに軍需産業が資金援助をしていることはまちがいないが、日本経済の悪化に伴って日本の産業界がこのやり方をまねて日本を軍事化に向かわせ、アメリカと共に戦争をする国になることだけは避けなければいけない。